研究内容 − クォークから原子核・原子へ、原子から宇宙へ†
宇宙を構成する基本的な粒子はクォークです。クォークが集まり陽子や中性子を作る、そしてそれらが集まり原子核となります。そこは日常では経験し得ない、強い相互作用に支配されたサブアトミックの世界。まだ我々が理解し得ていない謎が数多く残されています。核物理研究センター理論部では、サブアトミック(素粒子・原子核)世界の基礎から応用まで、幅広い研究を多岐にわたって行なっています。
ハドロンの形成 -- 質量の生成、クォークの閉じこめ、カイラル対称性の破れ 等†
ハドロン分光学†
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エキゾチック原子・原子核†
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- エキゾチック原子(核)とは?〜中間子原子・中間子原子核〜
- 原子では、正の電荷を持つ原子核の周りに負の電荷を持つ電子が、クーロン力で束縛されています。そこで、負の電荷を持つけれども電子とは別の粒子(ここでは主に中間子)を束縛させたものを、エキゾチック原子(中間子原子)と呼びます。また、それがクーロン力ではなく原子核を構成する力でもある強い相互作用によって原子核に束縛されているものを、エキゾチック原子核(中間子原子核)と呼びます。
- どうやって作る? ~missing mass 分光編
- [step 1] 加速された粒子を、標的原子核に衝突させ、
- [step 2] 核反応により目的の中間子を作り出し、
- [step 3] 出てくる粒子のエネルギー・個数を計測する。
- どこで出来る?
- 適切なエネルギーの入射粒子を作り出す為には、大規模な加速器が必要です。日本では、兵庫県の SPring-8 で 2.3GeV の光子が利用できる他、現在 KEK (高エネルギー加速器研究機構)と日本原子力研究所との共同で大強度陽子加速器プロジェクト(J-PARC) が進行中で、茨城県に大規模な加速器が建設されており、様々な新しい発見が期待されています。
- 何が分かる?
- このようなエキゾチックな状態を人工的に作ることで、粒子の有限媒質中での振る舞いや、原子核の間に働く相互作用を調べることが出来ます。それによりカイラル対称性を始めとする、様々な物理を明らかにしていくことを目指しています。
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Super Computerを使った格子QCD計算†
量子色力学(Quantum ChromoDynamics, QCD)は、「強い相互作用」と呼ばれる、原子核・ハドロン程度の非常に小さな系を支配している力を記述する理論です。しかしながら、QCDは低エネルギーで相互作用が強くなる性質を持つため、QCDから原子核やハドロンの性質を導くことは困難になります。格子QCDは、このような低エネルギー領域において、QCDの第一原理計算を行うことができる唯一の方法です。この方法ではまず、時空を格子状に区切り、さらに体積を有限化することで経路積分の自由度を有限化します。その上で、モンテカルロ法を使って、数値的に経路積分の評価を行います。理論の発展、コンピュータ・パワーの増加に伴い、様々な物理量が格子QCDによって計算されるようになり、それらは現実とよく一致していることが知られています。
RCNP理論部では、格子QCDを用いて、QCDの著しい特徴である「カラーの閉じ込め」現象の解明にチャレンジしています。この現象は、QCDに現れる、赤・青・緑の「カラー」を持ったクォークやグルーオンが、単体では観測されず、必ず「カラー白色」の状態であるハドロンとして観測されるというものです。QCDから「カラーの閉じ込め」を導くのはとても難しい問題で、未だ解決に至っておらず、クレイ数学研究所は問題解決に一億円の賞金をかけているほどです。我々のグループでは、この現象の解明のため、ゴーストと呼ばれる粒子の伝播関数や、クォーク間ポテンシャルの研究を行っています。また、カラーの閉じ込めは、QCDの相転移温度(2兆度!)を超えると無くなると考えられていますが、このような非閉じ込め相でのハドロンの状態を調べる研究も行っています。
格子QCDには非常に大きな計算量が伴います。現在私たちは、2007年に新しく大阪大学に導入されたベクトル並列型スーパーコンピュータSX-8Rを用いて、大規模な数値計算を行っています。2008年には更に高速なマシンの導入が予定されており、研究に拍車がかかると期待しています。
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原子核の形成 -- 原子核の(不)安定性、核反応による元素合成 等†
原子核における相対論的効果†
- 少数系
原子核を相対論的に記述する研究を行っています。
- 原子核を相対論的に記述する必要性
- 現在までのところ原子核の性質や散乱現象を説明する研究はすでに多数存在しています。
それらの研究では多くの場合原子核を非相対論的に記述しており、相対論的効果は非相対論的な計算に対する補正として取り扱われることが多いという現状です。しかしながら、軽い原子核の電磁的性質、特に中エネルギーから高エネルギーにかけての電子との反応は本来相対論的な効果を考えることが本質であると考えられていますので、完全な相対論的な枠組みの構築が求められています。
- 現在までの研究の結果
- 現在までのところ、最小の原子核である重陽子を研究した結果、相対論的な枠組みに特有の状態である負エネルギー成分を考慮した場合に実験結果を体系的に再現できることが分かりました。(下図参照)
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- 図:負のエネルギー成分を取り入れた場合と取り入れない場合の荷電形状因子FC、磁気形状因子FM、電気4重極形状因子FQの計算結果の比較。横軸は運動量移行。点線が負のエネルギー成分を取り入れない計算。実線が負のエネルギー成分を取り入れた時の計算。青は実験値と誤差。
- これからの展望
- 現在は2核子系である重陽子ですが、将来的にはより多くの核子で構成される原子核を相対論的に記述することを目指しています。
パイ中間子理論の基礎からの再出発†
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- パイ中間子は、核力を媒介する粒子として、1935年に湯川秀樹博士によって導入されました。原子核を形成するのに必要な強い相互作用は、パイ中間子が核子(陽子や中性子)から発生して他の核子が吸収するという交換過程によって生じるとする考えです。核子はパイ中間子を交換すると、スピン状態の変化、アイソスピンの量子数(陽子と中性子状態)の変化、およびパイ中間子自体が負の内部パリティをもつことから核子の状態のパリティ変化、および非常に広い運動量空間を要するといった複雑な変化をもたらします(図1)。
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- この複雑さのために取扱いが難しく、この相互作用の有効的な効果を中心力といった単純な相互作用に表現した方法や、摂動論がとられていました。一方で、この複雑さは、核力の様々な性質をみごとに説明します。つまり、交換する2核子の状態、スピン、アイソスピン、パリティおよび角運動量状態に強く依存している交換性や、主要で強い非中心力であるテンソル力の説明等です。
私たちの研究室ではパイ中間子論の基礎に基づいて、パイ中間子の交換力が持つ複雑な性質を素直にまじめに取り扱った理論の構築をして、多くのこれまで説明できなかった原子核構造に関わる現象の理解を試みようとしています。この見方は原子核の描像を大いに変更するものです。この変革は丁度、クーロン力のような電気力から磁気力のような磁気双極子力で原子核が構成されているというくらいの大変革です。
パイ中間子交換力の非相対論的な表現はテンソル力です。非相対論的な理論の枠組みとしては、テンソル力を取り扱うために、殻模型に基づいて最適化された理論を構築して、例えばクラスター構造や、中性子ハロー原子核の構造のテンソル力の役割の研究が試みられています。
もう一つの理論的枠組みとして、相対論的平均場理論を土台にしてパイ中間子が主導的役割を担うのに十分な模型空間をもつ理論の構築を行っています。パイ中間子は、ハドロン物理学で非常に重要な対称性であるカイラル対称性の自発的破れに伴って発生する、南部-ゴールドストン粒子です。原子核ではこのカイラル対称性が破れた世界であると考えられていますが、原子核中ではこの対称性が部分的にどのくらい回復されるのかが大きな問題となっています。そのために、カイラル対称性をもった線形シグマ模型という相互作用を用いて理論を構築していきます。もしこのような疑問に答えていくことができれば、物質の階層を跨いで対称性を軸とした統一的な理解を得ることができるようになるかもしれません。その議論のために先ず、パイ中間子交換力を余さずとり扱うための理論の枠組みの改良、そしてその特徴がどのような物理量にどのように反映されるのかを探っています(図2)。
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クラスター構造と不安定核†
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- 原子核は陽子と中性子からなる量子多体系であり、その形状は球形や楕円形など中心が一点である一体場描像がよく成り立ちます。その一方、原子核中で数個の陽子と中性子が部分的に一つの塊(クラスター)を形成する状態も存在します。例えば8Beはα粒子 (4He) が2個(α-α)から成る系です。更に炭素(12C)においては、基底状態はほぼ球系ですが、励起状態は3個のα粒子に発達した状態(下図)になります。その他にも複数のクラスターからなる原子核の状態が考えられ、元素合成においても重要な役割を果たしています。私達はこれら多種多様なクラスター構造の形成機構を調べています。
最近、実験で不安定核(陽子または中性子の一方が過剰な原子核)を人工的に作ることが可能になり、その性質が興味を持たれています。不安定核でもクラスター構造は存在します。例えば11Li(陽子数:中性子数=3:8)では9Liコア核+2 中性子(下図)のようになり、その外側は中性子のみが存在しています。その他にもどの様な新しいクラスター構造が不安定核で出現するのか私達は探っています。
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