*はじめに [#intro]

原子核とは、原子の中心に存在し、原子質量のほぼ全てを担う粒子で、陽子と中性子が中間子を媒介して強く結合したものです。原子と原子核の大きさの比は、野球場のグラウンドと米粒程にも異なります。中間子の媒介によって生じる「強い力」によって、極めて小さな空間の中に、原子のほぼ全てのエネルギー((アインシュタインにより、質量とエネルギーは等価であることが示されています(質量公式)。))が、原子核として閉じ込められているのです。

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原子核研究グループでは、多様な性質を持つ原子核を多角的に研究しています。特に、原子核単体の性質に留まらず、原子核同士の衝突・反応現象を理解することに力を注いでいます。原子核の性質は、加速器を中心とする様々な実験施設で原子核の反応を引き起こし、その結果を測定・分析することによって理解されてきました。最先端の理論が予言する原子核の性質を、観測結果との比較・検証によって「実証」することが、私たちの最大の研究目的です。

主な研究プロジェクトとしては、[[原子核物性の解明>#genshikakubussei]]、[[宇宙核反応の描述>#uchuukaku]]、[[テンソル相互作用の理解>#tensor]]などがあります。また、[[革新的なノイズ除去理論の構築>#noise]]や、[[次世代核融合炉の材料照射試験プロジェクトに向けた核反応計算>#IFMIF]]など、実社会に貢献する研究課題にも取り組んでいます。

*メンバー [#member]
-[[緒方 一介>http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~kazuyuki/]] / Ogata, Kazuyuki~
RCNP准教授
-[[土岐 博>http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~toki/index.html]] / Toki, Hiroshi~
RCNP名誉教授 / 産学連携本部ベンチャービジネスラボラトリー特任教授~
-東崎(鈴木) 昭弘 / Tohsaki (Suzuki), Akihiro~
RCNP特任教授
-堀内 昶 / Horiuchi, Hisashi~
RCNP特任教授
-[[菊地 右馬>http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~yuma/]] / Kikuchi, Yuma~
RCNP特任教授
-[[洞口 拓磨>http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~thoraguc/pukiwiki/index.php]] / Horaguchi, Takuma~
RCNP特任研究員
-胡 金牛 / Hu, Jinniu~
RCNP特任研究員
-[[明 孝之>http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~myo/index.html]] / Myo, Takayuki~
RCNP招聘研究員 / 大阪工業大学講師
-堀井 香織 / Horii, Kaori~
博士課程2年
-小川 洋子 / Ogawa, Yoko~
RCNP共同研究員

*各研究プロジェクトの概要 [#project]

**原子核物性の解明 [#genshikakubussei]

原子核は多様な性質を持つ有限量子多体系である。原子核の基底状態は、核子(陽子と中性子の総称)がぎっしりと詰まった状態、すなわち密度が飽和した状態と考えられているが、同時に、ひとつの核子に注目すると、それが他の核子集団が形成する平均ポテンシャル中を運動するという描像も成立している。この平均場描像に基づけば、原子核は特定の核子数ごとに固い殻を形成し、安定化するという結論に至る。これが原子核の殻構造である。しかし一方で、軽い原子核や原子核の励起状態では、原子核を形成する核子集団が部分系に分かれて存在する形態、すなわちクラスター構造が発達している。

全ての原子核は核子から構成されている。それにも関わらず、核子の集団である原子核が示す様相は、極めて多彩である。この多彩な原子核の特性を理解することが、原子核物理の最大の目的である。これは、世界を最小の構成要素に分解し、基本粒子と基本相互作用を特定する、いわゆる素粒子的還元主義とは異なる問題設定である。特に原子核の高い励起状態と、陽子数・中性子数のバランスが崩れた不安定原子核は、有限量子系の多様性の宝庫として注目され、精力的に研究されている。

我々の研究グループでは、上で述べた核構造の多様性を量子力学的多体計算によって理解・説明し、さらにこれを反応研究と接続することによって、実験で観測される物理量との比較・分析を行っている。自然界からの回答である実験結果を理論計算が説明できるか? これは理論に課された重大な要請である。一方、理論的に予想される原子核の新たな特性が、どのように観測量に反映されるかを予言し、これを実際に実験によって実証することも極めて重要な研究の形態である。


**宇宙核反応の描述 [#uchuukaku]

「我々はどこから来たのか?」

これは、形而上学的な問ではなく、原子核物理学の究極の目的を端的に示しているとも言える、純粋に物理学的な問である。すなわち、我々の体を構成している元素が、宇宙開闢から現在までの約137億年の間に、どこで、どうやって創られたかという問いかけである。誕生後間もない宇宙(=ビッグバンのおよそ1秒後には、光とニュートリノ、そして小数の陽子・中性子・電子だけが存在していたと考えられている。炭素・酸素・カルシウムなど、生命の主要構成要素となる元素は存在していない。もちろん鉄や亜鉛などの金属も一切存在しない。これらの重い元素は、初期宇宙の構成要素から、何らかの方法で創り出されたと考える他ない。我々を形作っている、あるいは我々の身のまわりにあふれている様々な元素。その誕生の謎を解明することは、原子核物理学の最重要課題のひとつと言っても過言ではない。

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元素の変化は、原子核の変化である。従って、初期宇宙の構成要素から様々な元素を生成する過程の実体は、原子核反応に他ならない。我々のグループでは、そのような視点で捉えた原子核反応を宇宙核反応と呼び、その正確な描述に精力的に取り組んでいる。特に、不安定核が関与する粒子移行反応や分解反応の正確な反応解析を通じて、地上では測定できない、宇宙で起きている原子核反応の反応確率を決定する試みを展開している。また、これまでの研究で見落とされていた、3つの粒子が同時に反応・融合して新たな元素を生み出す反応についても、重点的に研究を進めている。



**テンソル相互作用の理解 [#tensor]

原子核においてはパイ中間子は重要な役割をしている。それは重水素や He4の構造の研究で明らかになっている。しかし、重い核ではパイ中間子相互作用が擬スカラー粒子であるという性質から生じる強いテンソル力の取扱い方法が確立していなかったことで、これまでは研究が無かった。核物理センター理論部では長年にわたってこの方法の開発に研究を集中させてきた。最近になってテンソル最適化シェルモデル(TOSM)やテンソル最適化少数多体系モデル(TOFM)が研究され、重い核でもテンソル力を取り扱うことができることが示された。その原理を受け継いでハートレーフォック法で多体系を取り扱うのが拡張されたBHF理論である。これをEBHF理論と呼ぶ。その原理は原子核の基底状態を簡単な単一粒子波動関数の積で書けるHF状態とそこから2p-2h励起される状態を変分空間に設定し、後は変分原理でそれらの変分関数を得る微分を含んだ連立方程式を得る。この最終的な方程式はこれまで原子核物理が基礎としてきたBHF理論に酷似している。しかし、BHF理論は多体系を扱う手法であり、変分法のような理論の裏付けの無い理論であった。そこにEBHF理論はしっかりとした道をつけたことになる。今後はEBHF理論を使って重い核の計算を行い、マジック数はパイ中間子が引き起こすことの証明をおこなう。さらには核物質の計算を行い、スーパーノバ等で必要な状態方程式を導出する。QCD理論に依拠した原子核物理の構築を目指す。


**実社会への貢献を目指す研究 [#shakaikouken]

***電子回路の電磁ノイズの削減と電気回路理論とアンテナ理論の統一理論 [#noise]

電子回路は必ず電磁ノイズを放出するし吸収する。周りに迷惑を与えているし、周りから迷惑を受けている。しかし、一般には電磁ノイズの大きさが小さいことでこれまではあまりまともには対応されていない。しかし、加速器のような大型で精密な機械では電磁ノイズは命取りになる。理由は建設コストが高いために出来るだけビーム振動を小さくすることでビーム管や電磁石の大きさを節約する必要があるからである。最近の電気回路で電磁ノイズということで最も問題なのは電源である。電気を使い易くするために電流や電圧を自由にコントロールする技術が開発されて、電流等を細かくチョップし目的に合わせて整流したり交流に変えたりする。この際に高周波のノイズが発生する。高周波の問題は回路内にとどまらず周辺に電磁波が放出されることである。この問題を解決するには対象となる電子回路と環境や周りの物質との相互作用を考慮した電気回路理論を確立する必要がある。ところが、これまでの電気回路理論は環境との結合が全然考慮されておらず、全く新しい回路理論を構築する必要があった。マクスウエル方程式をまともに取り扱うことで基本方程式を得ることに成功した。さらには回路理論に適合するように微分方程式で表現することで電気回路理論とアンテナ理論が統合されて一つの連立微分方程式に表現出来ることが分かった。今後は、あらゆる電気回路やコンピュータ等に新しい回路理論が使われることだと思う。電磁ノイズの無い社会の実現を目指している。


***核融合炉用の材料照射試験プロジェクトへの貢献 [#IFMIF]

現在、核融合炉用材料照射試験のための大強度加速器中性子源の開発計画(International Fusion Material Irradiation Facility: IFMIF 計画) が、国際協力の下で推進されている。この中性子源として注目されているのが6,7Li(d, nx) 反応である。実際の中性子生成実験では、厚いリシウム標的に40MeV 程度の重陽子を入射する。このとき、重陽子は標的との相互作用により次第にエネルギーを失っていき、その過程で中性子の生成反応が起こる。従って中性子源の開発には、幅広い入射エネルギーにわたる6,7Li(d, nx)反応の核データが必要となるため、全てのデータを実験的に整備することは難しい。~
本研究は、この 7Li(d, nx) 反応を離散化チャネル結合法並びに Glauber 模型を用いて記述することにより、実験データの代替物となる理論計算値の提供を目指すものである。これまでの研究によって、我々のモデルは、40MeV入射の実験データを調整パラメータなしで再現することがわかっている。~
今後は、40MeV以下のエネルギーについても分析を進め、IFMIF 計画に必要な核データの理論的な整備を進めていく予定である。

*定例の会合 [#meeting]

**原子核構造・反応セミナー [#aa80b48c]
月に2回を目安に、内輪向けのセミナーを開催しています。~
参照: [[核物理研究センター 核構造・反応ゼミのページ>http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~takasina/nsr.html]]

**勉強会 [#oe496d37]
実験のグループと共に、2週間に1度程度、勉強会を開催しています。~
参照: [[勉強会のページ>http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/Divisions/np1-a/pukiwiki/index.php?勉強会2011]] (RCNP計算機のアカウント名とパスワードが必要)


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