当センターの目指す中間エネルギー精密核物理学

ハドロンからなる原子核(原子核のミクロな成立ち)

 従来の原子核研究では,ほとんどの場合原子核は陽子と中性子 (総称して核子と呼ばれる)の単なる集合体として理解できるこ とを示しています.しかし,一方では核内核子のまわりを中間子 の雲が取り巻いているといわれており,また核子や中間子などの ハドロンはさらに基本的なクォークから構成されていることが知 られています.実際,これまでは主として原子核の表面だけを見 ており,原子核の本当の姿を知るためには,原子核の内部を観測 しなくてはなりません.いったい原子核の内部はどのようになっ ているのでしょうか.陽子と中性子を考えるだけで本当に充分な のでしょうか.

 核子と核子の間には中間子をやりとりすることによる,相互作 用(核力)が働きます。原子核の内部の性質もこのような力の性 質によって支配されています。最近の研究によると,原子核に外 部から核子を入射したとき,核内に入ると核子の質量が変化し, 同時に速度も大きく変化するといわれています(相対論効果). これは核内では核子のまわりの中間子の雲が歪むためであろうと 考えられているのです。

 このように,入射核子と原子核との相互作用を通して,原子核 の様々な構造を調べることができます.核反応によって放出され た粒子の分布を調べたり,中間子を発生させたりすることによっ て,特徴的な状態を作り出し,原子核の内部を調べて,核子のみ でなく,中間子も含む新しい原子核像(ハドロンからなる原子核) を確立することをめざしています。これはさらにクォークに基づ く原子核像にも道を開くもので,世界を形づくる物質の豊かな階 層構造を明かにするものと期待されます.

少数核子系

 一般的には,原子核は多数の核子の集合体ですが,少数の核子 からなる原子核(少数核子系)も存在します.たとえば,重陽子 (陽子1個,中性子1個からなる原子核),トリチウム(陽子1 個,中性子2個からなる原子核)などです.原子核の色々の性質 を理解するためには,その内容の構造を知る必要がありますが, その構造の理解には核力の性質を知る必要があります.この核力 を基礎にして,ひじょうに複雑な運動をする多数の核子からなる 原子核の性質を明らかにするのです.この基本的な核力の性質に は,まだ不明確な点が残っています.

 最近の理論的研究の進歩によって,少数核子系の内部構造を正 確に解くことが可能となり,実験結果と理論計算との直接の比較 が出来るようになりました.構造が明確で,しかも近辺に存在す る多くの核子の影響を受けない,少数の核子で構成された原子核 と,入射粒子との相互作用によって生ずる現象,核子のやりとり, 中間子生成といった反応素過程を知り,基本的な核力の性質を明 確にします.また,核子だけでは説明が出来ない現象−中間子な どの効果−もよくわかるようになります.

 これらの研究は少数核子系でみつけられた現象,素過程,そし て基本的核力が,数おおくの核子からなる原子核内部でどのよう に変質するのか,多核子系内で生ずる現象(多体効果)を研究す るための重要な基本研究です.また,この少数核子系の研究は, 星の進化の研究にもひじょうに役立っているのです.

原子核の種々の運動

 原子核の中の核子は,各々独立に勝手な運動をすることもあれ ば,多くの核子が集団でまとまって動く場合もあります.後者の 場合は,種々の振動運動(原子核の形の振動や,陽子・中性子の 密度あるいはスピンの向きの振動など)もあれば,非球体に変形 した原子核の高速回転運動となる場合もあります.これらの運動 形態の変化が何によってもたらされるのか,規則性・統一性を解 明するとともに,新しい運動形態の発見に努め,原子核の研究に 新しい概念を生み出します.

新しい原子核をつくる             −新不安定同位体−

 同位体とは原子核内の陽子の数が同じで中性子の数が異なる原 子核です.自然界に安定して存在する原子核は300種類,人工 的に作り出された(不安定な)原子核は約2000種類にのぼり ます.しかし,理論的には約6000種類の原子核が存在すると いわれ,今後まだ3000種類以上の原子核が見いだされると予 想されます.

 新しい不安定原子核を生成しその性質を明らかにする研究は, 原子核の新しい性質を知る上で重要であるばかりでなく,生成さ れた不安定原子核を標的原子核に衝突させる(二次ビーム実験) ことによって,更に広範囲の原子核を作り出すことを可能にしま す.これは同時に,宇宙創世期に起こった現象を実験室で再現し, 物質(元素)合成過程や星の生成の様子を明らかにすることに寄 与するものです.