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2015.07.01

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定常ミューオンビーム施設MuSICで表面ミューオンビームの生成に成功

大阪大学核物理研究センター(RCNP)、大阪大学理学研究科、高エネルギー加速器研究機構、理化学研究所などの研究者で構成される研究グループは、新型高効率ミューオン生成装置MuSIC(ミュージック)により表面ミューオンビームを生成することに成功しました。国内唯一の定常ミューオンビームラインであるRCNP-MuSICにおいて表面ミューオンビームが供給されることにより、物性分野の基礎研究や産業応用のための利用が期待される超高時間分解能ミューオンスピン回転測定への道が開けました。

MuSICミューオン生成装置はミューオンを効率よく生成する新しいアイデアに基づく装置で、2009年に大阪大学理学研究科と大阪大学核物理研究センターにより開発されました。素粒子の一つであるミューオンを生成するには、陽子ビームを高速に加速し、標的物質に入射、反応させる必要があります。標的内で生成したパイ中間子がミューオンへと崩壊することにより、ミューオンが生成されます。MuSICでは、このパイ中間子およびミューオンを生成する標的を高い磁場中に設置することで、放出されるパイ中間子とミューオンの大多数を強い磁場で捕まえ、そのまま高磁場でミューオンを実験装置へ輸送して行きます。これにより、従来のミューオン施設に比べて1000倍以上も高い効率でミューオンを生成することに成功しました。

RCNP-MuSICでは、昨年までに比較的高い運動量(~80MeV/c)を持つ崩壊ミューオンと呼ばれるミューオンビームの生成に成功していました。負電荷の崩壊ミューオンは、原子核実験や非破壊元素分析などに使用されます。一方、今回の実験では、物性実験に欠かせない表面ミューオンビームの生成に成功しました。図1は表面ミューオンビーム観測に喜ぶ研究者たちの写真です。

表面ミューオンビームは、正電荷を持つミューオンで、エネルギーが決まっており(運動量で29MeV/c)、さらに、スピン方向が揃った良質のミューオンビームです。図2は、正電荷のミューオンビーム強度をミューオン運動量の関係を測定した今回の実験結果です。運動量20~29MeV/cの範囲にピークが有り、これが表面ミューオンに対応します。生成された瞬間の表面ミューオンの運動量は29MeV/cですが、その後の物質との相互作用により運動量のいくらかが失われるので、測定では29MeV/c以下の部分にピークができています。今回初めてMuSICにより表面ミューオンが観測されましたが、今後は装置の詳細な調整を行うことにより、表面ミューオンの量や質を改善して行く予定です。

今回観測された表面ミューオンビームは物性研究などで使用する測定技術であるミューオンスピン回転測定法(μSR)の実施に不可欠なものです。スピンを持ったミューオンを磁場中に置くと棒磁石のように歳差運動し、この歳差運動の様子を調べることで、ミューオンがどのような磁場中にいるのかについて調べることができます。スピン方向が揃ったミューオンビームとは、N極が同じ方向を向いた棒磁石の集まりと考えるとわかりやすいかもしれません。つまり、運動量29MeV/cでスピン方向の揃った表面ミューオンを物質の中に静止させると、物質中の局所磁場を感じて歳差運動を始めます。この歳差運動の様子をミューオンから放出される陽電子を検出することにより観測し、物質内部の局所磁場構造を解析するのです。これが、ミューオンスピン回転測定法の原理です。この歳差運動の情報を詳しく調べるには、ミューオンが試料の中に停止してから何秒後のどの方向に陽電子が放出されるかを高い時間精度で測定することが重要です。

RCNP-MuSICの表面ミューオンでは、超高時間分解能ミューオンスピン回転測定が可能です。RCNP-MuSICが供給する表面ミューオンビームは、ミューオンが時間的に離れてパラパラと一つずつ飛んできます。これを定常ミューオンビームといいます。したがって、ミューオンが試料に停止した時間と陽電子が放出する時間を、それぞれのミューオンや陽電子について一つ一つ個別に精度良く測定することができるのです。これにより、ミューオンが停止してから何秒後にどれだけミューオンのスピンが回転するのか(つまり、ミューオンスピン歳差運動の回転周期)が精度良く測定でき、物質局所磁場についてより詳しい情報を引き出すことが可能となります。この超高時間分解能ミューオンスピン回転測定により、超伝導などの基礎研究や高性能磁石の開発などの産業応用など幅広い分野での研究が今後RCNPで展開されると期待されています。

・MuSICの詳細はこちら
http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/RCNPhome/music/

図1 祝 表面ミューオン観測

図2 表面ミューオン確認のグラフ

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