HOME > 研究最前線 > 明日を創る若手研究者(関原隆泰)

高エネルギー加速器研究機構(KEK)
素粒子原子核研究所

関原 隆泰

Takayasu Sekihara

主な経歴

2002年3月

山口県立徳山高等学校 卒業

2002年4月

京都大学 理学部 入学

2006年3月

京都大学 理学部 卒業

2006年4月

京都大学大学院 理学研究科
修士課程 入学

2008年3月

京都大学大学院 理学研究科
修士課程 修了

2008年4月~

京都大学大学院 理学研究科
博士後期課程

2011年3月

京都大学大学院 理学研究科
博士後期課程 修了

2010年4月

日本学術振興会 特別研究員 DC2 採用
(所属:京都大学 基礎物理学研究所)

2011年4月

日本学術振興会 特別研究員 PDに資格変更
(所属:
2011年4月:
 京都大学 基礎物理学研究所、
2011年5月~2012年3月:
 東京工業大学 理工学研究科)

2012 年4月~

高エネルギー加速器研究機構 博士研究員

  

エキゾチックな構造を持つハドロン共鳴状態の理論的研究

 

わずか数百個の粒子が織りなす
多彩な現象に魅力を感じて

 僕は小さい頃から科学全般が好きで、「将来は科学を扱う仕事に就きたい」と考えていました。数ある科学の分野の中から物理学を選んだのは、中学生の頃。紙と鉛筆でこの世界の様々な現象を表現できることに強い感銘を受けたからです。また、日本人で初めてノーベル賞を受賞された湯川秀樹博士に憧れたのも理由のひとつです。原子核物理学との出会いは大学三年での授業でした。原子核物理学で対象にするのは、たかだか数個から数百個の粒子で構成された「系」。なのに、系には極めて多彩な現象が出現するのです。その多彩さに魅せられたのです。

 原子核物理学の中で、僕が研究対象としているのは、ハドロンと呼ばれる粒子です。原子核を作る要素である陽子と中性子、また湯川博士が予言され後に発見されたπ中間子もハドロンの仲間です。ハドロンは素粒子であるクォークからできており、「強い相互作用」で互いに引力や斥力を及ぼします。ハドロンは最大で三個のクォークからできていると考えられています。例えば、π中間子は二個のクォーク(正しくはクォークと反クォーク)、陽子や中性子は三個のクォーク、といった具合です。これに対し、僕は四個以上のクォークからできているハドロンは存在するのか、存在するとすればどういう状態か、ということを理論的に研究しています。通常のハドロンと対比してエキゾチックハドロンと呼ばれるこの特殊なハドロンは、クォークのダイナミクスを支配する「量子色力学」の理論上では存在を否定されていません。しかし、不思議なことに、これまでの実験ではエキゾチックハドロンの候補は見つかりましたが、確定したものはまだありません。それはなぜか? この謎を解明するのが私の研究なのです。

「世界初」を知る喜びと興奮
そのための「決してあきらめない強さ」

 やはり、世界中の誰も知らない事を一番最初に知る喜び・興奮が研究の醍醐味です。これは僕が行っている原子核物理学の研究に限らず、一般的な全ての研究に当てはまること。原子核物理学の理論研究では「誰もやらなかった難解な計算をこなした末に既知の現象に結び付けられた」、「誰も思いつかなかった手法で新しい現象を予言した」などがやりがいを感じる時です。

 一方で、「世界中の誰も知らない事を一番最初に知る」のは、とても大変な作業です。世界中で誰も知らない、というのはそれなりの理由があるわけです。ですから、新しいことを知るために極めて難解な計算をしなければならなかったり、普通のやり方では新しい手法に到達できなかったりします。目の前の問題を解くためにアイデアをひねっても、九割は没になります。そうした自分の全く思い通りにならないことが、研究の難しさであり、魅力でもあります。

 それもあって、研究姿勢として「粘り強さ」を心がけています。例えば、問題になっている物事をとことん、粘り強く考える。研究では、今まで誰も考えつかなかったことをひらめき、誰も成し得なかったことをやり遂げなければなりません。僕は研究において「僕ができなければ、世界中の誰もできない」境地を目指しています。ただし、粘り強さは長所にも短所にもなり得ます。長年の努力の末に花開く研究もあれば、成果が乏しく骨折り損のくたびれ儲けに終ることもあるからです。そのことは、いつも自分に言い聞かせています。

 また、アイデアを常に蓄えておくことにも気を付けています。研究の中でのちょっとした気付きや小さなひらめきなどは、常に頭の片隅に置いておくようにしています。これらは、目の前の問題を解く上ではほとんど役に立ちませんが、数ヶ月、数年先にふっと新しい研究の方向に導いてくれることがあります。他にも、宇宙や物性など、物理学の他の分野の知識も吸収するようにして、アイデアのもとにしていますね。

巨大な実験施設を使った実験に
自分の研究を活かしたい

 将来は、実験研究者を巻き込んで、新しい研究の流れを作りたいと思っています。

 ハドロン実験にはやれること、やりたいことがたくさんあります。しかし、ハドロン実験には大規模な実験施設が不可欠で、どうしても限られた実験施設での限られた実験しかできません。そこには理論研究のサポートが重要になってきます。実験をスムーズに進め、成果を出すためには、「こういう量を測定すれば、こんな物理が得られるよ」という僕たち理論研究の立場の人間からの助言が不可欠なのです。この「こういう量、こんな物理」に関して、これまで誰も思いつかなかったことを提案して、実際に実験してもらうのが、研究者としての僕の夢ですね。

ハドロンが作る様々な現象を
少しずつ紐解き解明していく魅力

 原子核物理学の面白さは、たかだか数個から数百個の粒子が集まることで、実に多彩な現象が現れる点にあると思います。数個から数百個という粒子数は、日常目にする、例えば水滴のような物質を構成する粒子数と比べると、圧倒的に少ないのです。粒子数が少ないと粒子がポツポツと固まって(あるいはバラバラになって)おしまい、という全く面白くない状況になる可能性もあったはずです。ところが、現実は全然違って、少ない粒子数でも、ぶどうの房のようにいくつかのクラスター状に固まったり、変形したり、様々な形態を取っています。ハドロンでも、内部のクォークの数は二個とか三個とか、エキゾチックハドロンの場合でも四個とか五個とか、極めて少ないのです。それなのに、背後の「量子色力学」の影響を受けて「ハドロンの質量が、これは軽いのにあれは重い」といった特徴的な振舞いが現れます。これらの多彩な現象を、絡まった糸を少しずつ解きほぐしてやる様に解明していくことが、原子核物理学研究の魅力なのです。


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