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日本原子力研究開発機構
先端基礎研究センター

杉村 仁志

Hitoshi Sugimura

主な経歴

2004年3月

北海道札幌北高等学校 卒業

2008年3月

北海道大学理学部物理学科 卒業

2010年3月

京都大学大学院理学研究科 博士前期課程
(物理学・宇宙物理学専攻)修了

2014年3月

京都大学大学院理学研究科 博士後期課程
(物理学・宇宙物理学専攻)修了

2014年4月

日本原子力研究開発機構 博士研究員

中性子過剰ハイパー核の研究

ストレンジネスの魅力に惹かれました

この道を選んだ一番のきっかけは高校時代の物理の教諭との出会いでした。私が通っていた高校は大学から理学系の講師を招いて出前授業などを熱心に行っていた高校ということもあって、大学に進学しても物理をもっと勉強したいと思いました。北海道大学に進学後は、宇宙の成り立ちに非常に興味を持っていました。そのため素粒子原子核の分野に進みたいと思い、京都大学大学院に入学し、原子核実験の研究室に配属されました。北海道大学は理論の研究室しかなかったため、実験をするのは初めてで、同期に支えられながら検出器の製作などをしました。

現在の研究テーマを選択したのはストレンジネスの魅力に惹かれたからです。通常の原子核には存在しないストレンジネスは新たな量子数としてさまざまな状態や相互作用を生み出します。このような状態をピークとして観測してみたいと思いハイパー核の研究を始めました。

ハイパー核とは陽子や中性子から構成されているような通常の原子核にハイペロンを埋め込んだ系のことを言います。ハイペロンとは陽子や中性子にはないストレンジネスクォークを含んだバリオンです。通常の原子核にハイペロンの一種であるΛ粒子を入れることで原子核のサイズが小さくなったり、通常核では非束縛な共鳴状態が束縛状態として観測されたりします。これをΛ粒子の糊的効果といいます。この効果を利用することで、通常の原子核よりもさらに中性子過剰な同位体も作ることが可能になります。これを実験的に生成することが現在の研究です。中性子過剰なハイパー核の研究は中性子星のような高密度の天体の研究にもつながります。このような高密度の天体の内部ではハイペロンが存在すると考えられており、内部の状態方程式がどうなっているのかなどの研究へとつなげられる課題です。私は実験屋さんなので、得られた実験結果を理論研究者に提供し、実験・理論でタッグを組んでこの課題に取り組んでいくのが最終的な目標です。

仲間とともに切磋琢磨して実験に臨み
新しい物理が得られたときにやりがいを感じます

実験屋さんが物理結果を出すまでには5年はかかります。これはおおよそ大学院生の学生期間とマッチしていますが、その大半は実験までの準備に費やします。私はJ-PARC(大強度陽子加速器施設)で実験を行いました。特に修士1年のころはJ-PARCは完成して間もない状態で、実験を行うための検出器群は何もない状態でした。検出器のデザインから始め、正しく機能するかのシミュレーションを行い、装置を開発していきました。これらの検出器をビームラインに組み上げていき、ビームを照射して物理データが得られました。検出器がすべて機能していないと物理データまで導かれません。たくさんの検出器をすべて機能させるために実験には人手を要します。私の実験では実験施設で10人程の学生やスタッフと毎朝打ち合わせを行い、現在の各検出器の準備状況を確認し、次にどう進めていけばよいかについて議論を行いました。仲間とともに切磋琢磨して実験に臨み、その結果として新しい物理が得られたときにやりがいを感じます。私の場合、初めての物理データは(π-,K+)反応を利用したΣ粒子の生成ランでした。これは飛跡などから求められる運動量等の較正に用いられるデータでしたが、Σ粒子を示すピークが鋭く立ったときにはこれまでの仕事が物理につながった喜びでやりがいを感じました。

研究を進める上で大切にしていることは議論を惜しまないことです。納得するまで議論します。特に実験屋さんは一人で研究できないものなので、数十人からなるグループ内で意思疎通が図れるよう議論や打ち合わせは欠かさず行っています。これを怠っていると実際の実験が始まるときには何を誰がどう行うのかが明瞭にならず、大事な実験の時間を削ることになってしまいます。また、実験データの取得後も解析について打ち合わせをして、間違った解析をしていないかのチェックをグループ間で行い、問題を解決していきます。これによって研究が円滑に進み、良い物理が得られると思っています。

まだ見ぬハイパー核を追い求めて
研究を突き進んでいきたい

ストレンジネス数が2以上のハイパー核に研究を広げた系統的な理解を進めていきたいと考えています。ストレンジネス数が2以上になると、ハイペロンハイペロン間の相互作用の大きさも測定可能なため、より中性子星の内部の近い状態を実験で作り出すことが可能になります。現在、ストレンジネス数が2以上のハイパー核は、理論的には活発に研究されているものの、実験では10年以上前にBNLやKEKで数個見つかっているのみです。J-PARCではストレンジネス数が2以上のハイパー核の生成実験を目指すため、実験装置の開発が今もまさに進められています。今後、まだ見ぬハイパー核を追い求めて研究を突き進んでいきたいと考えています。

目に見えない描像を理論計算や実験測定から
明らかにしていく過程がおもしろい

原子核がおもしろいと感じたのは、目に見えない描像を理論計算や実験測定から明らかにしていく過程です。原子核がどのような形をしているかなどは普通の電子顕微鏡を利用しても見ることはできません。しかし加速器を利用したビームで測定することで、この形も見えてくるようになります。ビームとそれをとらえる検出器はある意味で高倍率の顕微鏡のようなものです。

実験屋さんは物理から少し離れた仕事もしていきます。検出器開発や、回路開発、解析等のソフトウエア開発などなど多様です。しかしそれは最終的に実験で新しい物理を見つけるための大切なプロセスです。これを何十人ものグループで仕事を分担化し、そして実験に臨む。その結果として新たな物理を見つけたときにやりがいを感じます。


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