原子核中での中間子性質の変化

我々の体は原子でできており、原子の中には原子核とその周りを回る電子があります。電子の質量は軽く、原子質量の 99.95%は原子中の原子核を構成する陽子や中性子が担っています。そして、陽子や中性子はクォークとグルーオンで構成されていることが分かっています。2013年に欧州の CERN 研究所でヒッグス粒子が発見され、素粒子標準模型での質量生成のメカニズムが実証されました。しかし、ヒッグス機構によりクォークに与えられる質量は陽子や中性子の質量の100分の1程度しかありません。 この100倍の差を説明するのがカイラル対称性の破れだと考えられています。カイラル対称性の破れと核子の質量との関係を最初に見出したのは南部陽一郎博士でした。南部理論によればこの宇宙はクォーク・反クォーク (qq)が対になって凝縮しています。そして、この凝縮した(qq)とハドロンが相互作用することでハドロンが質量を得ると言われています。

このカイラル対称性の破れは、陽子や中性子が存在する環境の温度や 密度によって変化すると考えられています。 そこで、原子核中(密度の変化)や重イオン衝突の火の玉(温度の変化)などの 得意な環境でハドロンの質量を測定し、カイラル対称性の破れの回復を 見つけようとする実験が多数行われてきました。 近年、η’中間子はカイラル対称性の破れの変化に鋭敏に反応し、原子核中で 質量が大きく変化するという理論予想がなされました。この理論によれば η’中間子は原子中に核比較的安定に存在し、束縛状態を形成すると予想されています。 SPring-8 の LEPS2 実験では、このようなη’中間子束縛核を見つけようと実験を行っています。 2016年度は、この測定の邪魔になる背景反応について測定しその反応機構についてのデータをまとめ、日本物理学会第72回年次大会で発表しました。