Super Computer を使った格子QCD 計算

量子色力学(Quantum ChromoDynamics, QCD)は、「強い相互作用」と呼ばれる、原子核・ハドロン程度の非常に小さな系を支配している力を記述する理論です。しかしながら、QCDは低エネルギーで相互作用が強くなる性質を持つため、QCDから原子核やハドロンの性質を導くことは困難になります。格子QCDは、このような低エネルギー領域において、QCDの第一原理計算を行うことができる唯一の方法です。この方法ではまず、時空を格子状に区切り、さらに体積を有限化することで経路積分の自由度を有限化します。その上で、モンテカルロ法を使って、数値的に経路積分の評価を行います。理論の発展、コンピュータ・パワーの増加に伴い、様々な物理量が格子QCDによって計算されるようになり、それらは現実とよく一致していることが知られています。

RCNP理論部では、格子QCDを用いて、QCDの著しい特徴である「カラーの閉じ込め」現象の解明にチャレンジしています。この現象は、QCDに現れる、赤・青・緑の「カラー」を持ったクォークやグルーオンが、単体では観測されず、必ず「カラー白色」の状態であるハドロンとして観測されるというものです。QCDから「カラーの閉じ込め」を導くのはとても難しい問題で、未だ解決に至っておらず、クレイ数学研究所は問題解決に一億円の賞金をかけているほどです。我々のグループでは、この現象の解明のため、ゴーストと呼ばれる粒子の伝播関数や、クォーク間ポテンシャルの研究を行っています。また、カラーの閉じ込めは、QCDの相転移温度(2兆度!)を超えると無くなると考えられていますが、このような非閉じ込め相でのハドロンの状態を調べる研究も行っています。
格子QCDには非常に大きな計算量が伴います。現在私たちは、2007年に新しく大阪大学に導入されたベクトル並列型スーパーコンピュータSX-8Rを用いて、大規模な数値計算を行っています。2008年には更に高速なマシンの導入が予定されており、研究に拍車がかかると期待しています。


SX-8R(左)と格子上のハドロン(右)