AVFサイクロトロンは昭和49年に建設された可変エネルギーの加速器であり、陽子, 重陽子,ヘリウム3,アルファ粒子,軽重イオンをそれぞれ85,70,175,140, 140*Q**2/A MeVまで加速する。偏極陽子及び偏極重陽子も利用できる。 AVFサイクロトロンは現在では安定に稼働しており、リングサイクロトロンの入射器とし て使用している。
高分解能スペクトログラフ「雷電」,偏極スペクトログラフ「デュマ」,反跳核質量分析 器「カープ」等の多くの実験装置が設置された。昭和51年初頭にAVFサイクロトロンで 加速されたビームによる共同利用実験が開始され、核物理研究センターは低エネルギー精密 原子核物理学及び境界分野での活発な研究機関の一つに位置付けられている。
10年余りの稼働後、パイ中間子生成可能な中間エネルギー原子核物理学を拓くために、 昭和62年にK=400MeVリングサイクロトロンの建設を開始した。リングサイクロト ロン,高分解能反応粒子スペクトログラフ「大雷電」,ビームスィンガーと中性子測定装置, 重イオン二次ビームコースが平成3年に完成した。AVFサイクロトロンとリングサイクロ トロンから成る加速器複合系は、陽子,重陽子,ヘリウム3,アルファ粒子,軽重イオンを それぞれ400,200,510,400,400*Q**2/A MeVまで加速する。
リングサイクロトロンと関連測定装置を用いた中間エネルギー原子核物理学の研究内容の 例には下記のものがある。 1)原子核集団運動と原子核巨大共鳴の系統的研究。 2)原子核構造,弾性散乱,非弾性散乱,原子核反応。特に高運動量移行での測定と未知の 短距離相関現象の探求。 3)原子核構造及び原子核反応に於ける相対論的効果。 4)低−高励起エネルギーでのスピン−アイソスピン相関。 5)核子−核子相互作用に基づく重イオン反応と偏極現象の研究。 6)パイ中間子生成領域の原子核でのパイ中間子生成,相互作用及び崩壊機構。
その他の研究内容には下記のものがある。 1)低放射線バックグラウンド地下実験施設での非加速器実験によるニュートリノ物理学, 宇宙暗黒物質の探索。 2)1−4GeVレーザ電子光を用いた原子核・核子内でのクォークを基礎とするハドロン の性質解明。 3)素粒子・原子核反応情報制御測定システムの開発。
クォーク核物理研究部は、現在では理論物理学と実験物理学の両者から成る。研究内容の 例は下記のとおりである。 1)核物理研究センターのリングサイクロトロンの加速粒子ビームを用いる原子核反応の理 論的解析。 2)クォーク閉じ込めの理論的研究とハドロンの性質の研究,ビッグバンでのQCD[量子 色力学]相転移と元素の合成。 3)不安定核の研究と天体ハドロン物理・超新星爆発の物理の研究。 4)超大型スーパーコンピュータを用いた数値クォーク核物理学。 5)ハドロンの構造関数の実験的及び理論的研究。ハドロンのクォーク構造の解明。
AVFサイクロトロン及びリングサイクロトロンの性能向上のために、多くの開発研究が 行われている。それ等の例は、加速ビームエネルギーの高分解能化,機器の作動安定化,種 々のイオン加速,加速強度の向上である。更に、クーラー・シンクロトロンの開発研究が進 行中である。
原子核物理学の実験的・理論的研究を遂行するために、原子核物理学用のデータ処理及び 情報ネットワークの開発研究が行われ、その成果は国内研究者に利用されている。計算機系 はFACOM M−100/200,VAX,Sun及びパーソナルコンピュータから成り、 オンラインデータ処理に使用される。このシステムは国内外の研究機関と接続され、アクセ ス可能である。