RCNPワークショップ

サイクロトロンの動力学的非線形軌道理論についての議論        報告書はこちらから
ー  シンクロ・サイクロトロンの軌道理論との統一的記述  ー


開催日時  平成15年12月18日(木)  13:30〜17:30
                          19日(金)    9:00〜15:30

開催場所  大阪大学核物理研究センター  4階  講義室



今回のワークショップの特色について

  以下に述べるワークショップの主旨にもあるように,新たな軌道理論は確立された
ものではなく,未完成品であり,また,不良品である可能性もあり,その是非を巡っ
ての議論も多いと思われる.また,独創的な解法や,さらに,新たな見方や考え方や
新たな展開も発想出来る可能性もあり,そのための自由な討論の場とします.


ワークショップの主旨
 

サイクロトロン加速器での渦巻き状軌道を描く加速運動において,荷電粒子の集群,
即ち,ビーム・バンチに対する動力学的軌道理論を,シンクロトロン加速器において
同一軌道上を周回する加速運動の軌道理論をお手本にして,定式化を進めて来たと
ころ,シンクロ・サイクロトロン加速器での渦巻き状軌道を描く加速運動の軌道理論と
統一出来る,新たな軌道理論が構築出来る見通しが得られつつある.
  即ち,新たな軌道理論は,渦巻き状軌道を描く加速運動において,縦方向運動に対
して,シンクロトロン振動が起こるように磁場分布を与えればシンクロ・サイクロトロンが
定まり,トランジション・エネルギーの状態になるように磁場分布を与えればサイクロトロ
ンが定まると言う構造を持つ.
  シンクロトロン振動は,エネルギーのずれを線形一次の近似で取り扱ったときの縦方
向運動で,シンクロトロンにおいて既に確立された運動様態である.その結果,シンクロ・
サイクロトロンでの渦巻き状軌道を描く加速運動に対して,エネルギーと磁場と加速周
波数のずれを線形一次の近似で取り扱うとき,これらのずれの間で,美しく簡明な関係
式が得られる.
  これに対して,トランジション・エネルギーの状態は,エネルギーのずれに対しては非線
形運動であり,適切な近似そのものが明らかではなく,シンクロトロンにおいても,実験結
果を満足に説明出来る軌道理論が確立されているとは言い難い.その結果,サイクロトロ
ンでの渦巻き状軌道を描く加速運動においては,縦方向運動の非線形性故に,全ての粒
子が等時性運動を行うと言う,等時性サイクロトロンが存在出来ない可能性もあり,ビーム・
バンチの運動様態を理解し説明することは,容易ではないと考えられる.
  事実,今から約50年近く前のFFAG加速器での高周波加速に関する論文によれば,トラ
ンジション・エネルギーでは,縦方向運動は非線形運動になることが,既に,議論されている.
しかし,シンクロトロンでの,その後の研究によれば,その論文で採用された非線形近似で
は不十分とされており,その一方で,その近似に代わるものは提案されておらず,結論には
達していない.
  さらに,シンクロ・サイクロトロンの一種であるFFAG加速器の場合には,その加速位相が
sinφであるのに対して,サイクロトロンでは加速位相がcosφであるため,非線形運動の
様相は非常に複雑になる.その結果,ビームの品質や強度や時間幅や加速効率や取り出し
の効率を改善するために,これまでに開発されて来た様々の手段の,非線形軌道理論による
見直しを行う必要があると考えられる.例えば,等時性磁場分布,中心バンプ,位相スリット,
取り出し付近でのハーモニック磁場,フラットトップ,等々が,見直しの対象であるが,その
ためには,実際の運転調整での不可思議な経験やシミュレーション計算での不思議な振る
舞いを理解しておく必要があるものと考える.
  ところで,新たな軌道理論においては,サイクロトロン及びシンクロ・サイクロトロンでの
ビーム・バンチの運動様態を求めるに先立って,渦巻き状軌道を描く加速運動のうち,特殊な
運動を想定し,それを実現出来る磁場分布を求めることが必要である.これは,シンクロトロン
において,シンクロナス運動を実現出来る磁場の時間微分を求める手続きに相当するが,
特殊な運動を実現出来る磁場分布を,軌道半径に対する非線形微分方程式の解として,
求めることになる.しかし,その複雑さの故に,現時点では,未だ,解を得ていない.
  以上のように,新たな軌道理論は,非線形運動や非線形微分方程式,等々,複雑な様相を
示すことが知られて来ている.これらの解法の開発に加えて,運動方程式のモデル化を始め
として,低速領域での運動における相対論と非相対論との違いの比較,等々,数多くの検討
すべき課題が山積している.
  ワークショップにおいては,新たな軌道理論の枠組みの紹介に加えて,AVFサイクロトロン
での内部ビームの実測データの紹介,荷電粒子の運動のシミュレーション計算結果の紹介,
特殊な運動を実現出来る磁場分布の数値計算結果の紹介,等々を織り交ぜて議論を進め,
新たな軌道理論の是非や可能性,さらには,今後の展開を探りたい.
  その結果,サイクロトロン及びシンクロ・サイクロトロン(FFAG加速器)のビームの高品質化
や大強度化に向けての,新たな道が開けることを期待したい.





プログラム(敬称略)

12月18日(木)  13:30〜17:30

  13:30-15:30   基調報告・その1(サイクロトロン及びシンクロトロンの軌道理論
                の復習と見直し,サイクロトロン及びシンクロ・サイクロトロンを
                統一した新たな軌道理論で最も簡素なもの)
                佐藤健次(大阪大学核物理研究センター)
  15:30-16:00   コーヒーブレーク
  16:00-16:30   AVFサイクロトロンの内部ビームの実測データ
                二宮史郎(大阪大学核物理研究センター)
  16:30-17:00   AVFサイクロトロンの荷電粒子の運動のシミュレーション計算
                宮脇信正
                (日本原子力研究所高崎研究所放射線高度利用センター)
  17:00-17:30   議論(果たして非線形運動は存在するか?他)
                座長:佐藤健次(大阪大学核物理研究センター)

12月19日(金)    9:00〜15:30

   9:00- 9:30   基調報告・その2(特殊な運動を実現出来る磁場分布)
                佐藤健次(大阪大学核物理研究センター)
   9:30-10:30   特殊な運動を実現出来る磁場分布の数値計算
                小畑修二(東京電機大学理工学部自然科学系列物理教室)
  10:30-11:00   コーヒーブレーク
  11:00-12:30   基調報告・その3(各論:低速領域での相対論効果,余弦関数によ
                る加速と非線形運動,フラットトップ加速と非線形運動,ハーモニ
                ック磁場の下での非線形運動,他)
                佐藤健次(大阪大学核物理研究センター)
  12:30-13:30   昼食
  13:30-15:30   議論(非線形運動の今後の展望とその攻め方,他)
                座長:佐藤健次(大阪大学核物理研究センター)
  15:30         閉会