PANDORA プロジェクト
鉄くらいまでの軽い元素は宇宙の物質組成の大部分を占めており、その光核反応の理解は宇宙核反応において特に重要です。地上の観測所により10の20乗電子ボルトを超える超高エネルギー宇宙線(UHECR)が地球に飛来していることが分かっていますが、その起原や組成、加速機構はいまだ謎に包まれています。UHECRが原子核であることが近年の観測で示唆されており、その銀河間伝搬中とエネルギー・組成変化を決めるのは、宇宙マイクロ波背景放射とよばれるビッグバンの残光との間の光核反応であると考えられています。しかし、軽い核の光核反応は、変形、αクラスター構造、陽子・中性子ペアリング、前平衡状態の崩壊など複雑な事象が絡み、その理論的記述はいまだにチャレンジングな問題です。この問題に実験核・理論核・宇宙素粒子物理の三領域が共同して挑戦するのがPANDORAプロジェクトです。
核物理研究センターと南アフリカiThemba LABSにおいて仮想光子励起法による測定を、ルーマニアで建設中のELI-NPにおいて実光子ビームによる測定を行う計画を進めています。
レーザープラズマ核反応
高強度レーザーの技術開発により1平方センチメートルあたり10の22乗ワットの高エネルギー密度を達成することができるようになってきました。高強度レーザーを個体標的に照射すると標的が瞬間的に熱せられてレーザープラズマが発生し、 数10メガ電子ボルトの電子やイオンが放出されることが観測されています。つまり原子核核反応が十分に起き得る高エネルギー・高密度場が瞬間的に形成されています。しかしレーザープラズマ中の原子核反応を直接観測した例は、まだ極めて稀であり、 ガンマ線計測などの実験手法を含め最先端の課題となっています。我々はレーザープラズマ中の核反応を検出することを目的とし、関西光量子科学研究所、名古屋大学F研との共同で、世界最強度クラスのJ-KAREN-Pレーザーを用いてレーザープラズマからのガンマ線を計測する技術の開発を進めています。将来的に、レーザープラズマ中で生じる高電場・高磁場中の核反応の検出により、 マグネターと呼ばれる超高磁場天体中での核物質の性質や、高温・高密度下での新たな核反応を研究することを目指 しています。
PHANES プロジェクト
巨視的な核子多体系の構造や性質を研究するプロジェクトです。 特に物質の基礎方程式である状態方程式の研究と、物質相のうちフェルミオン対凝縮相である超流動や超電導の研究を行っています。
CNS Active Target (CAT) -アクティブ標的プロジェクト-
原子核反応の測定では標的をおいてビームを照射します。
実験ではビーム粒子や、反応からでてくる多数の粒子をほぼ同時に測定しています。
検出器は標的を囲うように置かれることが多いのですが、時には反応点近くを調べたいと思うことがあります。原子核を押しつぶしたり、回転させたりする時には原子核の中心を強く叩くのではなく、こするようにそっと原子核に力を与えることが有効です。
その場合には力が弱いので原子核はあまり遠くへ飛ぶことができないため、標的外側の検出器では測定できないのです。
近年、標的そのものを飛跡測定が可能な検出器にすることで反応点近傍を調べることを可能にするシステムが盛んに開発されています。
このようなシステムは、標的そのものが粒子検出可能な状態(アクティブ)ということでアクティブ標的システムと呼ばれます。いわば原子核どうしが反応した瞬間を捉える三次元カメラです。
恒星が燃え尽きたあとにできる天体にはブラックホールや中性子星といった重い天体があります。
なかでも中性子星は核子が10の57乘個もある巨大な原子核なようなものです。
この巨大な原子核は重力によって押しつぶされていますが、核子どうしの反発力によって形を止めています。
反発力がどのくらい強いものかを示すのが核物質の状態方程式です。
状態方程式には原子核がどのくらい押しつぶされやすいかという指標である非圧縮率が含まれています。
この非圧縮率の決定が中性子星の構造を決定するためにはとても重要だと言われています。
非圧縮率の決定をするには原子核を押しつぶしたり揺らしたりしてその応答を調べる必要があります。
原子核を押しつぶしたり揺らしたりする時には、原子核の表面が接触するくらいそっとぶつけてあげる必要があります。
この時、蹴り飛ばされた原子核は物質中を遠くまで飛ぶエネルギーを持っていないため、原子核どうしの衝突点付近の様子を詳細に調べてやる必要があります。
そこで我々は原子核反応の衝突点付近を撮影することができる三次元カメラであるアクティブ標的システムCATを開発しています。
アクティブ標的では全ての原子核が撮影可能ですが、ビームとして入射してくる原子核も当然撮影します。
たくさんのビームを入射した場合は逆光のカメラのようにビームが眩しく輝きすぎて周りのものをぼやけさせてしまいます。
そこでビーム部分だけ明るさを調整できる機能を付け加えたアクティブ標的を作成しました。これにより世界で使われているアクティブ標的の10倍以上のビームを入射することができるようになっています。
現在CATは第一世代のCAT-Sが完成しており、10倍の測定効率を持つ第二世代のCAT-Mを製作しているところです。
ONOKORO プロジェクト
「原子核の表面科学」をテーマに掲げて研究教育を推進しています。重い原子核の表面でアルファ粒子が析出する現象を、アルファ粒子を叩き出すアルファ・ノックアウト反応という手法で解明しようとしています。
身近な物質を構成する種々の原子核も例外ではなく、我々の体がアルファ粒子で溢れる、新しい物質観を示していきたいと考えています。
核物理研究センターのダブルアーム・スペクトロメータはこの研究を進めるにあたり最適な道具であり、大阪大学から最新の実験結果を世界に発信することができます。
研究をさらに発展させて、アルファ崩壊の謎や中性子星の核半径に関連した情報も引き出していきたいです。