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2025.07.14

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超冷中性子の生成に成功 — 時間反転対称性の破れを探る国際共同研究が前進

2025年6月13日に核物理研究センターが参画するTUCAN(TRIUMF Ultracold Advanced Neutron)国際共同研究が、カナダ国立加速器研究所TRIUMFにて、超冷中性子(UCN: Ultracold Neutrons)の生成に成功しました。

UCNは、極低エネルギー状態(約100ナノ電子ボルト)まで冷却された中性子で、数百秒間容器に蓄積できる特性を持ち、中性子の基礎物理量の高精度測定に適しています。中性子は電気的に中性ですが、内部にわずかな電荷の偏り、すなわち電気双極子モーメント(EDM: Electric Dipole Moment)が存在する可能性があります。有限の中性子EDMは時間反転対称性の破れを示し、これは宇宙の物質・反物質非対称性の起源と関連するCP対称性の破れに繋がる重要な物理量です。TUCAN国際共同研究は、大量のUCNを生成し、中性子EDMをこれまでにない高精度で測定することで、時間反転対称性の破れを探索することを目指しています。

TUCAN国際共同研究では、加速器による高速中性子発生と超流動ヘリウム中のフォノンによる非弾性散乱によるUCNへの変換を組み合わせたUCN生成手法を用います。この手法は核物理研究センターのサイクロトロン加速器でのプロトタイプ試験によりその有用性が実証されたものです[1]。今回の新UCN源によるUCN生成実験では、高速中性子を効率よく減速させる液体重水素減速材が未設置の状態ながら、事前の予測[2]とよく一致するUCN生成レートを確認することができました。今後は同減速材の導入を経て、いよいよ本格的な中性子EDM実験へと研究が進む予定です。

詳細はTRIUMFの公式ニュースリリースをご覧ください:
https://triumf.ca/2025/06/30/new-ultracold-neutron-source-produces-record-for-canada/

TUCANは日本、カナダ、米国、メキシコの研究者が参画する国際共同研究であり、本研究成果には、以下の大阪大学核物理研究センターの構成員が貢献しました:
樋口嵩 特任准教授(京都大学とのクロスアポイントメント)、今城想平 協同研究員(理化学研究所)、松宮亮平 技術専門職員、三島賢二 准教授、Hooi Jin Ong 招へい教授、Kelin Qiao大学院生、嶋達志 准教授、谷畑勇夫 特任教授。
また、高強度UCN源の開発は、故・畑中吉治特任教授の主導のもとで進められました。とりわけ、UCN源の中核をなすヘリウム冷凍機は、大阪大学核物理研究センターと高エネルギー加速器研究機構との協力により開発されたものです。

[1] Y. Masuda et al. Phys. Rev. Lett. 108, 134801 (2012).
[2] W. Schreyer et al., Nucl. Inst. Meth. A 959, 163525 (2020).

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