J-PARCハドロン実験施設は、J-PARCプロジェクトの第1期計画として建設が認められ、当初コミュニティユーザーが検討していた実験ホールのほぼ半分の大きさで建設され、運転が開始されたものです。
従って、建設開始当初からユーザーのなかで、施設拡充の計画が議論・検討されてきました。
ここでは、その概要、検討のために開催されてきた研究会などや、その成果として出版した文書などをまとめておきます。
現在のハドロン実験施設と拡張計画の概要
図の左側の部分が現在のハドロン実験施設に対応し、主リングシンクロトロン(MR)からの30GeV陽子ビームを二次粒子生成標的(T1)にあて、発生する二次粒子を輸送して実験を行う二次粒子ビームライン(K1.8, K1.8BR, KL)とMRからハドロン実験施設への輸送の途中で分岐したビームライン(High-pとCOMET)がある。
High-pビームラインは、2019年度に完成した。COMETビームラインは2022年度完成の予定で建設が進んでいる。
それぞれのビームラインの特長とそこで行う研究を示す。
- 荷電粒子ビームライン(K1.8, K1.8BR)
静電分離装置により、質量分離した荷電粒子ビームを提供するビームライン。
K1.8ビームラインは、2.0 GeV/c までの粒子を輸送できる。1.8 GeV/c の
大強度 K-ビームを用いたストレンジクォークが2つ入った
ハイパー核の研究を行っている。
K1.8BRビームラインは、K1.8の途中で分岐するビームラインで、
1.0 GeV/c のK-ビームを用いたK中間子原子核などを研究している。
K1.8/K1.8BRビームラインは上流部を共有しているため、同時の運転は
できない。
- 中性K中間子ビームライン(KL)
大強度の中性K中間子ビームを用いて、K中間子の稀崩壊事象、
KL → π0 ν νbar
を探索し、標準模型を超える新物理の手がかりを探る(KOTO実験)。
- High-p ビームライン
30GeV 一次陽子を輸送できるビームライン。ベクター中間子の
質量が原子核内でどのように変化するかを調べ、ハドロンの質量の
大部分を産み出したとされるカイラル対称性の自発的な破れについて
調べる。将来は、高運動量( 20 GeV/c まで)
の二次粒子を輸送し、実験を行うことも検討している。
- COMET ビームライン
8GeV陽子ビームを輸送して、大量のミュオンを生成し、
荷電レプトン・フレーバー保存が破れる電子ーミュオン転換事象
を探索し、標準模型を超える新物理の手がかりを探る(COMET実験) 。
ハドロン拡張計画
ハドロン拡張計画では、現在の実験ホールを下流に延長して、新たな二次粒子生成標的(T2)および二次ビームライン(K1.1/K1.1BR, HIHR, KL, K10)を設置する。
各ビームラインの特長とそこでの研究などは以下である。
- K1.1/K1.1BRビームライン
低運動量( 0.8 から1.2 GeV/c)のK-ビームを提供する。
ストレンジクォークが1つ入ったハイパー核、ハイペロン散乱実験、
K中間子原子核などの研究を更に展開し、バリオン間力(核力)
や原子核内バリオンの性質を解明する。
- HIHR (High-intensity high-resolution,
大強度高分解能)ビームライン
大強度の荷電π中間子ビーム(2 GeV/cまで)を提供する。
分散整合という手法を用いることによって、
ビーム粒子を測定することなくこれまでの10倍の精度(分解能)で
ハイパー核の準位構造を測定する。
それによって、高密度の原子核・ハドロン物質中でのバリオン間力
(核力)を調べ、中性子星内部の謎を解明する。
- (新)KLビームライン
ビーム取り出し角度を既存施設の16度から5度に最適化し、
より大強度のKLビームを実現し、現施設でのKOTO実験の
100倍の感度でK中間子稀崩壊事象を探索する。
- K10ビームライン
高運動量(2ー10 GeV/c)の質量分離された荷電二次粒子(K中間子、
π中間子、反陽子)のビームを提供する。スレレンジクォークが2個
あるいは、チャームクォークが入ったバリオンの分光により
ハドロンを記述する有効自由度(ダイクォーク相関)や原子核内での
ハドロンの性質を調べる。
- テストビームライン(Test BL)
現施設のKLビームラインの跡地を汎用ビームラインとして整備し、
検出器などのテストに用いる。
Focused Review
"Review of Hadron Experimental Facility Extension (HEF-EX)"(2021/8/10,11,17,25, online)
ハドロン拡張計画に関するレビュー委員会がJ-PARC PACの下部組織としてつくられ、レビューが行われました。レポートはリンク先を参照下さい。レビューにおいて、拡張計画は高い評価を得ることができました。
ハドロン拡張関係プレゼンテーション
ハドロン拡張関係プレゼンテーションまとめ
これまで行った研究会など
-
"Town meeting 2025 on the Extension Project for the J-PARC Hadron Experimental Facility (J-PARC HEF-ex Town Meeting 2025)"(2025/2/20, Tokai, hybrid.)
-
"4th International Workshop on the Extension Project for the J-PARC Hadron Experimental Facility (J-PARC HEF-ex WS)"(2024/2/19-21, Tokai, hybrid.)
-
"3rd International Workshop on the Extension Project for the J-PARC Hadron Experimental Facility (J-PARC HEF-ex WS)"(2023/3/14-16, Tokai, hybrid.)
-
"2nd International Workshop on the Extension Project for the J-PARC Hadron Experimental Facility (J-PARC HEF-ex WS)"(2022/2/16-18, online)
-
"International Workshop on the Extension Project for the J-PARC Hadron Experimental Facility (J-PARC HEF-ex WS)"(2021/7/7-9, online)
-
2nd HIHR/K1.1 WS: "Strangeness in Neutron Stars -- Physics at J-PARC HIHR/K1.1 beam lines"(2021/6/17-19)
-
2nd K10 WS: "Workshop on Physics of Omega Baryons at the J-PARC-K10 beam line"(2021/6/7-9, online)
-
1st HIHR/K1.1 WS: "ハドロン拡張HIHR/K1.1ワークショップ〜核物理による中性子星内部の解明へ〜"(2021/5/23, online)
-
1st K10 WS: "Workshop on Physics at the J-PARC K10 Beam Line"(2021/5/13-14, online)
-
"International workshop on the project for
the extended hadron exprimental facilty of J-PARC"
(2018/3/26-28 KEK東海キャンパス)
-
"International workshop on physics at the extened hadron experimental
facility of J-PARC"
(2016/3/5-6 KEK東海キャンパス)
-
"HUA workshop on the future of the Hadron Hall"
(2011/10/23 KEKつくばキャンパス)
-
研究会「ハドロンホールの拡張によって展開する物理」
(2010/6/6-7 KEKつくばキャンパス)
拡張計画に関係するドキュメント