HOME > 研究最前線 > 明日を創る若手研究者(田中 純貴)

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター、スピン・アイソスピン研究室

田中 純貴

Junki Tanaka

主な経歴

2006年3月

兵庫県立 姫路西高等学校普通科 卒業

2010年3月

岡山大学工学部 物質応用化学科 卒業

2012年3月

大阪大学大学院理学研究科 物理学専攻博士前期課程 修了

2014年4月-2016年3月

日本学術振興会 特別研究員(DC2)

2016年3月

大阪大学大学院理学研究科 物理学専攻後期課程 単位修得退学

2016年4月-2017年3月

甲南大学 理工学部 平生太郎基金研究員

2016年9月

大阪大学 博士学位取得

2017年4月-2019年3月

ダルムシュタット工科大学/GSI研究所 ポスドク研究員

2019年4月- 現在

現職

原子核の表面科学 ~低密度核物質の物理~

原子核の実験をツールに自然科学のナイーブな問いに答えられる!

日常的に感じることのできる重力や電磁気力とは異なり、核力が支配する原子核を使うと、それ特有の量子力学的システムを研究することができます。他のツールでは調べられない自然の秩序を原子核でもって解明し、広く自然科学のコミュニティや一般社会に発信することで、人類の知的好奇心を満たすことのが私の研究動機です。これから紹介する研究が将来、皆さんの知の一部になれば本望です。

空に浮かぶ雲が表面付近で徐々に薄くなるように、原子核の密度は表面で徐々に小さくなっていきます。それによって、原子核の表面付近は、低密度核物質に特有の量子現象が現れます。そこでは原子核を構成する陽子と中性子の数のバランスが崩れ、これまでの研究では、中性子の分布が陽子の分布よりも広い「中性子スキン」や、余剰中性子が原子核の周りに「後光が差す」ように広がった「中性子ハロー」が形成されることが知られてきました。私たちの研究では新たに、従来の中性子スキン・ハローを構成する過剰中性子だけでなく、陽子2個と中性子2個が集まったアルファ粒子も「クラスター」として実在し、原子核表面の中性子分布と共存・競合していることが分かってきました。この研究を実現するのがアルファクラスター・ノックアウト反応の実験です。簡単にいうと、表面付近に析出したクラスター粒子を、だるま落としのように抜きとばす方法です。2022年現在は、「おのころ」新プロジェクトのも、この反応を測定する検出器のアレイ「TOGAXSI(戸隠)」を製作中で、近い未来にそれを使った研究成果をどんどん出したいと考えています。私の研究は、いずれ地球上のヘリウム(アルファ粒子に電子がついた原子の元素名)ガスはどこからきているのか、という自然科学のナイーブな問いに定量的に答えることができると考えており、それを思うと今からワクワクしています。

世界中に信頼できる仲間ができる!

研究のやりがいはいくつかのステージで味わうことができます。まずは新しい物理のアイディアなどが浮かんだときは信頼できる共同研究者らや理論研究者らとアイディアを共有します。自分の基準で「面白い」と思ったことは、すぐには周囲の人には受け入れてもらえないことがほとんどです。しかし、何度も議論を重ねたり、より良い説明ができるようになると、徐々にその「面白さ」を共有することができます。多くの人が共通に「面白い」物理であると認識されるところに1つのやりがいがあります。実験を進めていく段階では1人では進められず、チームで協力する必要があります。前回の実験でできなかったことや、スムーズに行かなかったことが、次の実験でできるようになると、チームとしての成長をひしひしと感じ、2つ目のやりがいが感じられます。論文を書く段階でも、私は多くの人に助言をもらって、励まされながら文章を書き進めます。論文が科学誌に通った時には、こららの人たちとこの上ない喜びを共有することができます。

こうして研究を進めると、いつの間にか世界中に信頼できる仲間ができ、ふと振り返って、仲間の顔が浮かんだ時に、最大の研究のやりがいを感じます。

究極の低密度核物質、中性子星の世界へ!

低密度核物質を研究していると、どうしても、さらに低密度の核物質を実現したい願望に駆られてしまします。この興味は天体現象である、超新星爆発後にできる中性子星の研究とも関連しています。中性子性の表面は、実験的にはまだほとんどのことが分かっていませんが、超低密度の核物質が広がっていて、そこにはまだ想像もしていない原子核の世界が広がっているかもしれません。地球上の実験でそのほんの一部でも擬似的に再現して、中性子星の表面の解明に迫ってみたいと考えています。

「原子核二十面相」にシャープな切り口でその正体に迫る!

原子核を研究することの面白さは、同じ原子核をとってみても、見方によってその描像や形が大きく変わることです。これらの異なる形や描像は、量子力学的な重ね合わせである「確率」でのみ実現し、研究の手法によって、上手に見たい描像を選択的に切り出せたりします。逆に偏った研究手法のみで調べていると、なかなか原子核の真の姿には迫れません。そこの上手さを極めるところに研究の面白さがあると感じています。そうして、「原子核二十面相」のまだ見ぬ姿を垣間見た時には、なんとか捕まえてやろうと探偵のごとく血が騒ぎ出します。


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