CNS Active Target (CAT)

アクティブ標的プロジェクト

原子核反応を撮影する逆光に強い三次元カメラをつくる

原子核反応の測定では標的をおいてビームを照射します。実験ではビーム粒子や、反応からでてくる多数の粒子をほぼ同時に測定しています。検出器は標的を囲うように置かれることが多いのですが、時には反応点近くを調べたいと思うことがあります。原子核を押しつぶしたり、回転させたりする時には原子核の中心を強く叩くのではなく、こするようにそっと原子核に力を与えることが有効です。その場合には力が弱いので原子核はあまり遠くへ飛ぶことができないため、標的外側の検出器では測定できないのです。

近年、標的そのものを飛跡測定が可能な検出器にすることで反応点近傍を調べることを可能にするシステムが盛んに開発されています。このようなシステムは、標的そのものが粒子検出可能な状態(アクティブ)ということでアクティブ標的システムと呼ばれます。いわば原子核どうしが反応した瞬間を捉える三次元カメラです。

恒星が燃え尽きたあとにできる天体にはブラックホールや中性子星といった重い天体があります。 なかでも中性子星は核子が10の57乘個もある巨大な原子核なようなものです。この巨大な原子核は重力によって押しつぶされていますが、核子どうしの反発力によって形を止めています。反発力がどのくらい強いものかを示すのが核物質の状態方程式です。状態方程式には原子核がどのくらい押しつぶされやすいかという指標である非圧縮率が含まれています。この非圧縮率の決定が中性子星の構造を決定するためにはとても重要だと言われています。 非圧縮率の決定をするには原子核を押しつぶしたり揺らしたりしてその応答を調べる必要があります。

原子核を押しつぶしたり揺らしたりする時には、原子核の表面が接触するくらいそっとぶつけてあげる必要があります。この時、蹴り飛ばされた原子核は物質中を遠くまで飛ぶエネルギーを持っていないため、原子核どうしの衝突点付近の様子を詳細に調べてやる必要があります。そこで我々は原子核反応の衝突点付近を撮影することができる三次元カメラであるアクティブ標的システムCATを開発しています。アクティブ標的では全ての原子核が撮影可能ですが、ビームとして入射してくる原子核も当然撮影します。たくさんのビームを入射した場合は逆光のカメラのようにビームが眩しく輝きすぎて周りのものをぼやけさせてしまいます。そこでビーム部分だけ明るさを調整できる機能を付け加えたアクティブ標的を作成しました。これにより世界で使われているアクティブ標的の10倍以上のビームを入射することができるようになっています。

現在CATは第一世代のCAT-Sが完成しており、10倍の測定効率を持つ第二世代のCAT-Mを製作しているところです。

大田 晋輔
大田 晋輔
准教授(原子核物理学)

実験原子核物理学、巨視的な核子多体系の物性、中性子星、先端検出器開発