核物質の状態方程式

要点

  1. 固体、液体、気体などの物質相は状態方程式によって記述される。
  2. 核物質の状態方程式は19桁も異なる大きさの世界を支配する。
  3. 原子核の硬さから核物質の状態方程式がわかる。

物質と状態方程式

「理想気体の状態方程式」という言葉をご存知でしょうか。相互作用をしない気体の圧力、体積そして温度を関係づけることができ、身近な現象を説明することができる非常に便利な方程式です。しかし実際の気体には相互作用があり、気体、液体、個体という物質の形態(物質相)が現れます。また、さらに温度を下げていくと超電導相や超流動相などの面白い相も現れることが知られています。相互作用があるおかげで多彩な物質相が現れるのです。

自然界を構成する4つの力の一つである強い力の世界でもさまざまな相が現れることが知られています。物質の大部分の質量を担っている原子核は強い力によって構成されています。その原子核を衝突させると高温・高密度の状態ができますが、原子核の構成要素である陽子・中性子があたかも氷がとけ液体になり、水が沸騰し気体になるというような変化が観測されています。原子核そのものは何もしないと温度が0と非常に低い温度で、その内部では超電導状態と考えられる構造があることも知られています。それではこのような強い力で支配される世界の状態方程式とはどんなものなのでしょうか?

強い力の世界の状態方程式

原子核は陽子と中性子という二種類の粒子が1個から複数個あつまってできたものですが、その種類は7000種類とも言われています。また、宇宙には巨大な原子核とも言ってもよい中性子星があり、その中には10の57乗個もの中性子が集まっていると言われています。大きさの違いは原子核の1fmにたいして中性子星は10km。実に19桁もの違いがあります。こんなに大きさの違う原子核と中性子星の構造を決める方程式、それが強い力の世界の状態方程式、すなわち核物質の状態方程式です。

核物質の状態方程式は原子核の構造や衝突の様子を表すだけでなく、超新星爆発の規模や中性子星の構造、重力波のもととなるコンパクト連星合体などの理解には必要不可欠な方程式なのです。その中でも特に中性子核物質の硬さを決める非圧縮率は実験で決定できるため、状態方程式の理論モデルに強い制約を与えることが期待されています。

核物質の硬さを決める

核物質をどれだけ押しつぶすことができるか?これが核物質の硬さです。中性子星の場合には重力によって押しつぶされていますが、硬さのおかげで潰れずにすんでいます。

核物質は陽子、中性子という二種類の核子から構成されています。核物質の硬さは核子の密度によって決まるものと、陽子・中性子の密度差によって決まるものがあり、ここではそれぞれ体積項、荷電項と呼ぶことにします。

私たちのグループは中性子物質の非圧縮率を決めるため、鍵となる不安定核の巨大単極共鳴の測定を実現しました。測定の鍵を

大田 晋輔
大田 晋輔
准教授(原子核物理学)

実験原子核物理学、巨視的な核子多体系の物性、中性子星、先端検出器開発