(執筆完了時削除 --> 執筆責任者: 小林 信之, 執筆締め切り: 2024/xx/xx)
このSPADI Alliance DAQ パッケージは、SPADI Alliance (SPADI-A) の Working Group (WG) 7 が中心となってまとめた DAQ システムを構成するために必要な要素を含む一揃えのパッケージである。本DAQシステムは従来型のトリガー型DAQではなく、連続読み出し型DAQに対応したシステムである。連続読み出し型DAQは、場合によってはトリガーレスDAQ、デッドタイムレス DAQ とも呼ばれるが、近年盛んに研究が進んでおり、実装される事例が増えてきている。本パッケージは SPADI-A の WG1 - WG6 の最新の成果をまとめ、ユーザーが導入・利用しやすいようにしたものである。現時点 (2024年8月) ではこのパッケージの構成要素は、下図に示すようにハードウェア、プロトコル、ソフトウェア、ドキュメントに大きく分けられる。
連続読み出し型DAQシステムを実現する上で最も重要な部分はハードウェアの AMANEQ、プロトコルの MIKUMARI、さらにソフトウェアの NestDAQ である。また、データの解析には ARTEMIS を用いている。AMANEQ と MIKUMARI は本多良太郎氏 (KEK IPNS)、NestDAQ は五十嵐洋一 (KEK IPNS) 氏と高橋智則 (大阪大学RCNP) 氏、ARTEMIS は 大田晋輔氏 (大阪大学RCNP) が中心となって開発しているものであり、これらの強力な技術に支えられて本パッケージができている。また、本パッケージの各構成要素はそれ単体でも利用可能なように作られていることもここに言及しておく。AMANEQ は高速な連続読み出し DAQ を想定して開発されたものであるが、外部 Trigger 信号を受け付ける機能も搭載しており、 Trigger 型DAQとの混在運用も視野に入れている。NestDAQ は Front End Electronics (FEE) の AMANEQのデータを処理するために開発されたものであるが、他のFEEのデータを処理することも可能であると考えられる。ARTEMIS は連続読み出し型DAQのデータに限らず、広く原子核実験のデータ解析で利用されてきた実績がある。
本パッケージを用いることで、比較的手軽に、リーズナブルな金銭的コストで最新の超高速連続読み出し DAQ システムを導入することが可能である。実際にパッケージができることのイメージを掴むためには、本マニュアルの実装事例の項目が参考になる。本パッケージが想定する実験は主に物理実験であり、規模としては、加速器実験で言うと、小規模から中規模程度の実験である。また、学生実験や検出器テスト実験といった検出器のチャンネル数が1チャンネルから数チャンネルといった最小規模の実験にも最適である。現時点 (2024年8月) では FEE として AMANEQ TDC と CIRASAME が存在しているが、共に TDC として時刻情報を取得するものである。そのため、QDC といったチャージ情報を取得する MIKUMARI 対応の FEE は存在していない。チャージ情報を取得する際は、現状では QTC モジュールもしくは TOT モジュールを用いて、チャージ情報を TDC 情報 (もしくは TOT の情報) に変換し、それを AMANEQ に入力する必要がある。一方で、WG1 では連続読み出し対応の QDC相当のデバイスや Waveform デジタイザー等の開発が進んでおり、将来的には電荷情報のデータを適切に取得することを目標としている。
また、本DAQシステムは連続読み出し型DAQであるため、加速器の種類は問わず、サイクロトロン、及びシンクロトロンといったすべての加速器実験に対応可能であり、実際に大阪大学RCNPサイクロトロン実験施設のグランドライデンにおける物理実験 (E585)、J-PARC 陽子シンクロトロン加速器と MARQ スペクトロメータを用いた T103 実験、東北大学 RARIS の電子シンクロトロン加速器施設における NKS2 スペクトロメータ用 ビームプロファイルモニタ (BPM) 開発実験、韓国KISTタンデム加速器の物理実験において利用実績がある。
本パッケージは最新の超高速連続読み出しDAQ導入の作業時間、人的コストを削減することを目的として作成されている。さらに、物理実験業界においてパッケージ及び各要素技術を普及させることを目標としている。
2024/08/28 小林 信之 (大阪大学RCNP)
2024/xx/xx 脱九 花子 (SPADI大学) 修正・追記