RARiS NKS2 BPM テスト実験†
(執筆完了時削除 --> 執筆責任者: 洲波泥 太郎, 執筆締め切り: 2024/xx/xx)
実験の目的†
東北大学先端量子ビーム科学研究センター(RARiS) 第二実験室BM4ビームラインでは、1 GeV領域の実光子ビームを用いたハドロン・ハイパー核生成分光実験を展開している。主な実験プログラムは以下の通りである。
- 三重⽔素ラムダハイパー核寿命測定実験
- η'-d 状態の探索実験
- γ + d → K+ + Λ + n 反応の終状態相互作⽤を⽤いた Λn 相互作⽤の研究
etc.
BM4ビームラインでは、上記のような物理実験を行う際に光子ビーム軌道とビームサイズをモニタリングするため、シンチファイバーとSiPMを基本構造としたビームプロファイルモニタ(BPM[1])を導入している。合計3台のBPMと、光子標識化装置Taggerとのヒット情報を組み合わせることにより、エネルギーを同定した上で光子ビームプロファイルの即時測定が可能である。
従来のBPMによるビームプロファイリングでは、Hadron Universal Logic (HUL) を用いたstrTDC[2]を用いてきた。しかし、HULのstrTDCはメインストリームの機能ではなく、光子標識化装置(Tagger)との同時計測事象の選別や、光子イベントの即時測定困難などの問題がある。
そこで、本実験ではBPM用DAQとしてストリーミング専用DAQモジュールである「AMANEQ」を導入することで既存の問題点を解消し、標識化光子ビームの即時測定を実現することを目的とした。
[1] R. Kino et al., NIM A 1070 (2025) 169992
[2] R. Honda et al., PTEP (2021) 123H01.
実験セットアップ†
図1に実験を行なった第二実験室BM4ビームラインの模式図、図2にBPMの内部写真と検出部分の模式図を示す。Sweep電磁石上流側にBPM1、NKS2スペクトロメータ入口にBPM2、ビームライン最下流にBPM3(旧HSBPM[3])を設置した。BPMは、荷電粒子VETO層(1 ch)、電子陽電子コンバーター層、x-y位置検出層(15+15=30 ch)、トリガー層(1 ch)の計32 chから成るコンパクトな検出器である。特にBPM1, 2のx-y位置検出層は直径0.5 mmのシンチレーションファイバーから成り、1秒間のデータ収集で約10 µmの位置精度で光子ビームプロファイルを行う。これら検出器は既設であり利用実績がある。
図1 第二実験室BM4ビームラインの模式図
図2 BPMの内部写真と検出部分の基本構造
図3にDAQの全体像を示す。合計4台のAMANEQ基板を用いた。うち1台はMIKUMARIシステムを搭載した親基板とし、DAQ用のPCとの通信を行う。子基板である3台のAMANEQにはHigh Resolution TDCのファームウェアをダウンロードし運用した。3台のBPM(合計96 ch分)は2台のAMANEQを用いて読み出した。また、光子エネルギー同定のため、標識化装置Tagger[4]の読み出し30 chと併せて、spill構造と同期したデータ収集のため、ラジエータコントロールと同期したタイミング信号、TDC校正のための加速器RFと同期したタイミング信号(pre-scaled, 12 kHz)を入力した。MIKUMARIシステムによる時刻同期、補正とNest DAQによるイベントビルドの導入で、光子ビームプロファイルの光子エネルギー依存性、spill内時間依存性を即時測定で評価することが可能になる。
図3 DAQのセットアップ
DAQのハードウェア構成†
構成の概要図†
図4 DAQ構成と配線図
構成の説明†
4台のAMANEQのうち、1台にはMIKUMARI clock primaryをダウンロードし(AMANEQ1)、他3台(AMANEQ2-4)にはHR-TDC BASEをダウンロードした。図4にシステムの構成と配線図を示す。青のボックスとラインは1Gbps、ピンクのボックスとラインは10Gbpsに対応している。LC型とRJ45型(メタル)は用いるケーブルの形状に合わせて選べば良いが、1Gbpsと10Gbpsは明確に区別する必要がある。MIKUMARIの制御ラインとMIKUMARIから配られる同期クロックラインは1Gbps、HR-TDCからのデータ転送ラインは10Gbpsにする。本実験ではMIKUMARIとハブ間に必要なSFPモジュールとケーブルの組み合わせの辻褄を合わせるためRJ45-LCのメディアコンバータを挟んでいるが、本来は必要がない。
AMANEQ1にはクロック信号を配るためのCDD-OPTメザニンを、AMANEQ2-4にはクロック信号を受け取るためのMini-mezzanine CRVを取り付けている。AMANEQがGN-2006-4以降のバージョンの場合はこのCRVを取り付ける必要はない。また、AMANEQ2-4にはHR-TDCを取り付け、各検出器からの差動信号をフラットケーブルで入力している。
DAQ用PCと各AMANEQとの通信には10Gbps対応ネットワークスイッチハブを介する。DAQ PCには10Gbps対応のネットワークカードを増設した。
使用機器†
- AMANEQ 4 台 (GN-2006-3)
- HR-TDC 4 枚
- Mini-mezzanine CRV 3 枚
- CDD-OPT 1 枚
- ネットワークスイッチ 1 台
- メディアコンバータ 1 台
- SFP+モジュール LC型 6 個、RJ45型 1 個
- SFPモジュール LC型 8 個
- 光ケーブル 7 本
- LANケーブル CAT6 1 本、CAT7 1 本
- 計算機 1 台 (実験では、スペックの比較のため2台の計算機を用意した。)
機器の型番、購入先、価格(公開情報であれば。別ページでも良い。)†
- ネットワークスイッチ: S3900-24T4S-R
- メディアコンバータ: G0101-SFP(Kit#1)
- SFP+モジュール LC型: AXS85-192-M3
- SFP+モジュール RJ45型: ASF-10G-T
- SFPモジュール LC型: ASF85-24-X2-D
- 光ケーブル (両側LCコネクタ 長さ: 3m): Fiber Patch Cord OM3-LC-LC-D3M
- 光ケーブル (両側LCコネクタ 長さ: 15m): Fiber Patch Cord OM3-LC-LC-D15M
- 光ケーブル (両側10G SFP+ 長さ: 3m): DAC Cable CAB-10GSFP-P3M
- 計算機1 (k0ana)
- System Unit: ASRock X570 Steel Legend motherboard
- CPU: AMD Ryzen 9 5900X 12-Core Processor
- Memory: Kingston DDR4-3200 32 GB × 2 (total 64 GB)
- Storage: Total capacity 14.6 TB
- WD_BLACK SN750 NVMe SSD 1.8 TB
- RAID configuration (Seagate ST8000DM004 HDD × 4)
- NIC: Intel 82599 10 G, Intel I211 1G Network Connection
- OS: CentOS Stream 8
- 計算機2 (bpmdaq)
- System Unit: Intel Coffee Lake S
- CPU: Intel Core i3-8100 4-Core Processor @ 3.60GHz
- Memory: 8 GB DIMM DDR4 @ 2400 MHz × 1
- Storage:
- NVMe SSD: Samsung NVMe SSD (PM9A1/PM9A3/980PRO) 1.8 TB
- NIC: Intel Ethernet Controller 10-Gigabit X540-AT2 (10 Gbps × 2)
- GPU: Integrated Intel UHD Graphics 630
- OS: AlmaLinux 9.4
実装結果†
各チャンネルの典型的なヒットレート†
(Electron beam current: ~0.1 mA, w/o filtering)
- BPM1: x, y layer ~5 kHz, Trigger ~15 kHz, VETO ~3kHz
- BPM2: x, y layer ~5 kHz, Trigger ~17 kHz, VETO ~5kHz
- BPM3: x, y layer ~10 kHz, Trigger ~65 kHz, VETO ~55kHz
AMANEQからの読み出しデータ量†
(Electron beam current: ~0.1 mA, w/o filtering)
10 - 50 MB/s
ストレージへの書き込みデータ量†
120 MB/spill - 2.5 GB/spill (HR-TDC x 4 (128 ch))
(1 spill ~ 10 sec.)
各FairMQ デバイスの処理時間とか?†
調査中
フィルターの実装について†
time windowは20 - 160 nsの間でスキャンした。本システムでは典型的なパターンとして40 nsを採用。
- フィルター条件
実用的なフィルター条件としては、以下の2パターンを挙げる。
- ex.1) Accidental event suppression
- ex.2) Photon event selection
本システムでは、使用できる最大チャンネル数はおよそ20 chだった。
- 使用したプロセス数
- Logic filter x 4
- Time Frame Slicer x 4
- 他は1つずつ
- 最大読み出しデータ量: ~6.4 Gbps (計算機:k0ana、フィルター:ex.2)
- AMANEQ2: 280 MB/s
- AMANEQ3: 330 MB/s
- AMANEQ4: 190 MB/s
- フィルター利用時のデータリダクションの割合
調査中
今後の展望、改善点など†
(今後の予定、特に問題なくスケーラブルに拡張できるはずとか)
BPMシステムとの親和性は良いため、(資産の問題をクリアすれば)本格導入と継続した運用が可能。今後、標識化光子の即時モニタリング実現に向け、フィルタリング条件や効率についての詳細な解析が必須である。
また、BM4ビームラインで計画されている「γ + d → K+ + Λ + n 反応の終状態相互作⽤を⽤いた Λn 相互作⽤の研究」実験では、AMANEQの導入が予定されている。今回構築したBPMのDAQシステムを基礎に問題なく拡張可能である。
本稿執筆者†
2025/02/09 木野 量子 (東北大学)