中性子基礎物理

中性子は質量を持っていますが電荷を持たず、また低エネルギーでは波動性が顕著になるなど、面白い特徴を持っています。これらの特徴を活かして、基礎物理学にかかわるいろいろな実験をJ-PARC物質生命科学研究施設で進めています。現在進行中の主なテーマは以下の通りです。

・中性子寿命の精密測定
ビッグバン元素合成、小林-益川行列のユニタリー性の検証などに関連して重要ですが、現在発表されている複数のデータ間には3.8σ、相対差で1%の食い違いがあり、深刻な問題となっています。我々はパルス中性子ビームと能動標的(ターゲット兼検出器)を組み合わせた巧妙な方法により、バックグラウンドが少なく、絶対値の信頼性が高い測定を行っています。

・重力の逆二乗則の検証と大きな余剰次元の探索
最近の重力を含む素粒子の統一理論の多くは、4次元以上の空間次元の存在を想定しています。われわれはそのような高次元空間の存在を日常経験として感じることはないので、非常にミクロなサイズにコンパクト化されているものと予想されます。そのようなコンパクトな空間のサイズでは、物質に作用する力の距離依存性も変化する可能性があります。特に重力相互作用は、μm以下のスケールでは逆二乗則にしたがっているかどうかが十分に検証されておらず、通常の素粒子のサイズよりもずっと大きなスケールで距離依存性が変化している可能性が残っています。われわれは、冷中性子と希ガス原子との小角散乱を精密に測定し、核力による散乱からの微小なずれを検出することで、ミクロスケールでの重力の逆二乗則の検証を行っています。