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大阪大学 核物理研究センター
サイクロトロン実験グループ

大阪府 茨木市 美穂ケ丘10-1
大阪大学 吹田キャンパス
核物理研究センター

庶務係
TEL : 06-6879-8902

研究内容


世の中のすべてのものは原子核からできています。 われわれは原子核の研究を通して、自然界に潜む法則や現象を解き明かし、宇宙がどのようにして成り立ったのかを解明することを目指しています。
陽子と中性子が強い相互作用、電磁相互作用、弱い相互作用によって結びついて形作られた“原子核”は、原子の大きさの10万分の1よりもさらに小さな極微の物体であり、様々な量子現象が現れる量子多体系として基礎科学的に大変興味深い研究対象です。 RCNPのサイクロトロン加速器では、光の速さの70% まで加速した陽子などのイオンビームが得られ、それを用いて、原子核がどのような構造や性質をもっており、どのようにして生まれてきたかを研究しています。

PANDORA: 軽中重核の光核反応と宇宙核反応

鉄56程度までの軽核と中重核は、宇宙の元素組成の大部分を占めており、その光核反応は宇宙核反応において特に重要です。 たとえば、地上観測により1020 eVを超える超高エネルギー宇宙線(UHECR)が地球に到達していることが分かっていますが、 その組成や加速機構は未だ謎に包まれています。 このUHECRは原子核であることが近年の観測で示唆されており、その銀河間伝搬と組成変化を決めるのは宇宙マイクロ波背景放射 との光核反応であると考えられています。 しかし、軽中重核の光励起と崩壊には、変形、αクラスター構造、陽子・中性子ペアリング、 前平衡状態の崩壊など複雑な事情が絡み、その理論的記述はチャレンジングな問題です。 この問題に実験核・理論核・宇宙核の三者が共同して挑戦するのがPANDORAプロジェクトの目的です。 核物理研究センターと南アフリカiThemba LABSにおいて仮想光子励起法による測定を、 ルーマニアで建設中のELI-NPにおいて実光子ビームによる測定を行う計画を進めています。

レーザープラズマ中の核反応

高強度レーザーの技術開発により1020 W/cm2の 高エネルギー密度を達成することができるようになってきました。 高強度レーザーを個体標的に照射することによりレーザープラズマが発生し、 数10 MeVの電子・イオンが発生することが観測されています。 つまり原子核核反応が起きる高エネルギー・高密度場が瞬間的に形成されています。 しかし原子核反応を直接観測した例はまだ極めてまれで、 ガンマ線の測定などその実験手法を含めて最先端の課題となっています。 我々はレーザープラズマ中の核反応を検出する目的と、関西光科学研究所との共同で 世界最強強度クラスのJ-KAREN-Pレーザーを用いた研究を進めています。 レーザープラズマが生じる高電場・高磁場の核反応により、 マグネターと呼ばれる超高磁場天体中での核物質の性質など、 これまで調べることができなかった性質を研究することや、 高温・高密度下での核反応を生じる新たな手法を開発することを目指しています。

不安定核停止標的による核反応実験(BRILLIANT)とビッグバン元素合成

宇宙のはじまりのビッグバンから数100秒の間に、質量数7のリチウム・ベリリウムまでの元素が生成されたことが分かっています。 しかし、重水素やヘリウム4などの観測量は理論計算と一致しているのですが、 リチウムの観測量は理論の1/3程度と大きな開きがあることが問題となっています。 この問題は宇宙リチウム問題と呼ばれます。 まだ観測されていない未知の素粒子があることや、現在の宇宙論に修正が必要であることなどが提唱されています。 われわれは原子核物理学の観点から、リチウム生成に至る重要な反応の精度を上げることで問題の鍵をつかむための研究を進めています。 不安定核であるベリリウム7を停止した標的として作り、重陽子を入射した反応により陽子とヘリウム2つに壊れる反応を、 ビッグバンのエネルギー領域にて精度良いデータを取得することに成功しました。 現在データを最終結果にまとめる解析作業を進めています。 この様な不安定核を標的とする新たな実験手法の開発をBRILLIANTプロジェクトとして進めています。

巨大共鳴のガンマ崩壊:減衰と分散の謎

原子核にはそれを構成する核子のほぼ全てが関与する集団運動として巨大共鳴があります。 巨大双極子共鳴(GDR)はその最も有名な例で、陽子と中性子のかたまりの相対運動として説明され、 ほぼ全ての原子核で観測されています。 振動周波数はよく分かっているのですが、振動が減衰していく機構はまだ理論的にも記述できていません。 規則だった集団的な運動から、個々の核子の熱的な振動へとエネルギーが散逸していく機構が重要で、 巨視的には中性子流体と陽子流体の間の摩擦である粘性を理解する必要があります。 われわれは最も純粋な崩壊チャンネルである巨大共鳴からのガンマ崩壊を捕まえることで、 規則的な集団運動と熱的な運動とを成分分離して測定することを目指しています。 ガンマ崩壊は1%という低い確率でしか起きませんが、ジルコニウム90を標的とする実験に成功し、 これまで予想していなかった結果が得られ始めています。

0度陽子散乱による原子核の電気・磁気的励起の系統的測定と和則

核物理研究センターにおいて高分解能0度陽子散乱の技術を開発し、 偏極測定と組み合わせることで原子核の電気的励起と磁気的励起の研究を進めてきました。 15年余の開発と研究の進展により多くの研究成果が生まれました。 2019年にこれらの成果をまとめたレビュー論文を2つ出版しました。
1) エネルギー分母和則により原子核の電気分極率を精密に測定し、 中性子星を記述する状態方程式に必要な対称エネルギーを決める結果を与えた。
2) 原子核の磁気的励起の和則から基底状態の陽子と中性子のスピン方向の相関を定量的に導出した。
3) ピグミー双極共鳴の全強度分布を崩壊様式に依存しない方法を用いることで初めて導出した。
4) 高分解能スペクトル解析から、原子核の準位密度を中性子閾値より上の励起エネルギーにて初めて導出する手法を与えた。
5) 星の中での光核反応を記述するためのガンマ強度関数を電気・磁気の両励起について決定した。
などの成果をあげています。

参考資料


巨大共鳴と核物質の状態方程式

原子核を叩いてみるとなにが起こるでしょうか。 ちょうどいい強さで叩いてあげると原子核全体が振動する現象が現れます。 これを「巨大共鳴」と言います。 巨大共鳴にはいくつか種類がありますが、そのなかのひとつに巨大単極子共鳴と呼ばれる原子核が膨張圧縮を繰り返す状態があります。 この現象を用いて原子核の硬さを知ることができます。 さらにこの研究を通して、原子核の極限状態である中性子星の性質も研究することも可能です。 そのほかの巨大共鳴現象を通じても、中性子星などのいわゆる"核物質"の状態方程式のパラメータを世界最高の精度で求めてきました。

参考資料


ミューオンビーム

RCNPにはMuSICと呼ばれるミューオンビーム源があります。MuSICは連続時間構造(DC)を持つ日本初のミューオン施設で、基礎研究から応用研究まで多岐に渡って使われています。
詳しくは、ミューオン物理のページをご覧ください。


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