原子核においてはパイ中間子は重要な役割をしている。それは重水素や He4の構造の研究で明らかになっている。しかし、重い核ではパイ中間子相互作用が擬スカラー粒子であるという性質から生じる強いテンソル力の取扱い方法が確立していなかったことで、これまでは研究が無かった。核物理センター理論部では長年にわたってこの方法の開発に研究を集中させてきた。最近になってテンソル最適化シェルモデル(TOSM)やテンソル最適化少数多体系モデル(TOFM)が研究され、重い核でもテンソル力を取り扱うことができることが示された。その原理を受け継いでハートレーフォック法で多体系を取り扱うのが拡張されたBHF理論である。これをEBHF理論と呼ぶ。その原理は原子核の基底状態を簡単な単一粒子波動関数の積で書けるHF状態とそこから2p-2h励起される状態を変分空間に設定し、後は変分原理でそれらの変分関数を得る微分を含んだ連立方程式を得る。この最終的な方程式はこれまで原子核物理が基礎としてきたBHF理論に酷似している。しかし、BHF理論は多体系を扱う手法であり、変分法のような理論の裏付けの無い理論であった。そこにEBHF理論はしっかりとした道をつけたことになる。今後はEBHF理論を使って重い核の計算を行い、マジック数はパイ中間子が引き起こすことの証明をおこなう。さらには核物質の計算を行い、スーパーノバ等で必要な状態方程式を導出する。QCD理論に依拠した原子核物理の構築を目指す。
電子回路は必ず電磁ノイズを放出するし吸収する。周りに迷惑を与えているし、周りから迷惑を受けている。しかし、一般には電磁ノイズの大きさが小さいことでこれまではあまりまともには対応されていない。しかし、加速器のような大型で精密な機械では電磁ノイズは命取りになる。理由は建設コストが高いために出来るだけビーム振動を小さくすることでビーム管や電磁石の大きさを節約する必要があるからである。最近の電気回路で電磁ノイズということで最も問題なのは電源である。電気を使い易くするために電流や電圧を自由にコントロールする技術が開発されて、電流等を細かくチョップし目的に合わせて整流したり交流に変えたりする。この際に高周波のノイズが発生する。高周波の問題は回路内にとどまらず周辺に電磁波が放出されることである。この問題を解決するには対象となる電子回路と環境や周りの物質との相互作用を考慮した電気回路理論を確立する必要がある。ところが、これまでの電気回路理論は環境との結合が全然考慮されておらず、全く新しい回路理論を構築する必要があった。マクスウエル方程式をまともに取り扱うことで基本方程式を得ることに成功した。さらには回路理論に適合するように微分方程式で表現することで電気回路理論とアンテナ理論が統合されて一つの連立微分方程式に表現出来ることが分かった。今後は、あらゆる電気回路やコンピュータ等に新しい回路理論が使われることだと思う。電磁ノイズの無い社会の実現を目指している。