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$^{25}$Mg($p,p^{\prime }$)$^{25}$Mgと $^{25}$Mg($^3$He,$t$)$^{25}$Alの比較によるアイソスピン構造の研究

中性子と陽子の間に働く核力の荷電対称性により原子核はアイソスピン 対称な構造を持つ。いわゆるアイソスピン多重項によって 励起状態はアイソスピン量子数$T$で分類される。その アイソスピン量子数を同定することは、原子核の量子構造を知る上で重要な 情報となる。また近年、新たな実験施設の建設によって不安定核が注目さ れているが、安定核の高いアイソスピン状態は不安定核の状態とアナログ であることからもアイソスピンを同定する意義は大きい。しかし今までのところ、 アイソスピン量子数はほとんどの核において低励起状態とアイソバリックアナログ 状態(IAS)に対してしか分かっていない。 $M1$遷移とガモフ・テラー(GT)遷移は単純なスピン・アイソスピン振動モードである。 私は$^{25}$Mg の$M1$遷移と$^{25}$Mg $\rightarrow$ $^{25}$AlのGT遷移の アナログな関係を調べ、そのアイソスピン量子数を決定した。

これらの遷移を調べるには$\beta$崩壊や$\gamma$崩壊の測定が最良である。 しかし、高い励起状態になると粒子崩壊のチャンネルが開くため、 一般にIAS程度の低い励起状態までしか測定できない。 これより高い励起状態の構造を調べるには加速器を用いた ($p,p^{\prime }$)や($e,e^{\prime}$)、($p,n$)といった核反応 実験で測定する必要がある。 一般に核反応は多くの振動モードを励起するため、 特定の振動モードを選択的に見るための工夫が必要である。 荷電交換反応では、入射エネルギーが$E_{beam}>100$ MeV/nucleonで 運動量移行が$q=0$の極限のとき、$NN$相互作用の $V_{\sigma \tau}$が 支配的となり、${\Delta}L=0$${\Delta}S=1$${\Delta}T=1$のいわゆる ガモフ・テラー(GT)遷移が選択的に励起できるということが 知られている [1,2]。またこのとき散乱断面積と換算遷移確率$B$(GT) が比例していることで、GT状態の波動関数の知見を得ることができる [3,4]。 これと同じ性質が($p,p^{\prime }$)反応にも当てはまり、 $M1$遷移を選択的に観測してその換算遷移確率$B({\sigma})$が得られる。この条件で 荷電交換反応と($p,p^{\prime }$)反応を行い、両者のスペクトルを比較すれば、 アナログなGT状態と$M1$状態を観測できる。このとき、アナログな遷移の 遷移強度比は始状態と終状態のアイソスピンのクレプシュ・ゴルダン(CG)係数 の比になっている。この比が$T=1/2$$T=3/2$の状態で違うことを利用すれば、 アイソスピンを同定することが可能となる。

荷電交換反応の中で反応機構が最も分かっているのは($p,n$)反応であるが、 我々は高分解能で測定するために磁気分析器が使用可能な ($^3$He,$t$)反応を用いた。これにより、IASより上の高密度の 励起状態もほぼ分離することができる。また、加速器からのビームエネルギーの広がりを 補正する分散整合技術を用いることで [5]、50 keV(FWHM)以下まで分解能を 上げることができた。

我々は($^3$He,$t$)実験を大阪大学RCNPで、($p,p^{\prime }$)実験をアメリカ インディアナ大学のIUCFで行った。どちらも磁気分析器を使用し、 ビームの分散整合技術を用いた。その結果、$^{25}$Mgについては$E_x=8-20$ MeV、 $^{25}$Alに対しては$E_x=0-20$ MeVのスペクトルをそれぞれ 35 keVという高分解能で得た。

どちらのスペクトルにも$E_x=15$ MeVの高励起状態まで 分離した固有状態が観測された。これは、励起された核子の放出が クーロン障壁や遠心力ポテンシャルによって抑えられていることや、 $T=3/2$の励起状態は$T=0$への崩壊が禁止されていることによるものと考えられる。 $^{25}$Alについては$E_x=8$ MeV程度から崩壊幅が見え始めていた。 両者のスペクトルを比較から、$E_x=15$ MeVまでアイソスピン対称構造 が確かめられた。 $^{25}$Mgの$M1$状態への$B({\sigma})$$^{25}$AlのGT状態への$B$(GT)を比較し、 両者に内在するアイソスピンCG係数の比の違いから$T=1/2$$T=3/2$ の状態を同定した。



平成15年2月12日