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$^{37}$Cl($^3$He,$t$)$^{37}$Ar反応による ガモフ・テラー遷移の研究

$^{37}$Cl ${\rightarrow}$ $^{37}$Ar の遷移では、ガモフ・テラー(GT)遷移の 遷移強度$B$(GT)は太陽ニュートリノの研究と関連して注目されてきた。 原子核の荷電対称性を仮定すると、$^{37}$Cl ${\rightarrow}$ $^{37}$Ar と $^{37}$Ca ${\rightarrow}$ $^{37}$K の遷移強度$B$(GT)は等しくなるはずである。 しかし、$^{37}$Cl($p,n$)$^{37}$Ar実験 [6,7]と $^{37}$Ca (${\beta}_+$) $^{37}$Kの測定 [8,9] による$B$(GT)の分布は、クーロン力による荷電対称性の破れを考慮 しても説明のつかない大きな食い違いがあった。($p,n$)反応では 前項で述べた$B$(GT)と散乱断面積の比例関係が使われている [3]。 この性質が$j_<j_<$殻間の遷移では成り立っていないという報告がある[10]。

$^{37}$Cl($^3$He,$t$)$^{37}$Ar反応に対し、DWBA計算を行った。 一粒子空孔状態の配位には( ${\pi}d_{3/2},{\nu}d_{3/2}^{-1}$)と ( ${\pi}d_{3/2},{\nu}d_{5/2}^{-1}$)の2種類を仮定した。計算された 両者の角度分布を比べてみると、同じ ${\Delta}J^{\pi}=1^+$の遷移であっても 差が現れることが分かった。この違いを利用すれば、それぞれの ガモフ・テラー遷移を配位の違いで分類し、異なった比例係数で $B$(GT)を求められる可能性が出てくる。

我々は大阪大学RCNPにおいて、$^{37}$Cl($^3$He,$t$)$^{37}$Arを 0$^{\circ}$と4$^{\circ}$で測定した。標的は高分解能実験用に 新しく開発した $^{37}{\rm CaCl}_2+{\rm PVA}$の薄膜を使った  [11]。この事は次の章で述べる。さらに分散整合 技術を用い [5]、中間エネルギーの荷電交換反応としては 世界最高分解能の25 keVを達成した。GT状態が$E_x=10$ MeV までほぼ完全に分かれて観測された。その結果、同じ ${\Delta}J^{\pi}=1^+$ の遷移であるにも関わらず、角度分布に違いが見られた。この差は 配位の違いによるものと考えられる。

今後は角度分布の測定範囲を広げて$^{37}$ArのGT状態の配位を個々に推定し、 $B$(GT)のより適切な導出を行いたい。 これらはニュートリノの物理や原子核荷電対称性の問題に貢献するものと 期待される。



平成15年2月12日