2025-11-19 現地観測
阿蘇中岳観測坑道での放射線検出器の設置テスト
地下坑道の高湿度環境は高電圧を用いる放射線検出器の運用にとって過酷な環境です。将来的に高抵抗板検出器を設置するために,まずは従来使用されてきたプラスチックシンチレータによる宇宙線検出器を設置しました。
宇宙から絶えず降り注ぐ素粒子「ミュオン」を利用して、火山内部の変化を観測する新しい方法を開発しています。ミュオンの透過特性を測ることで、内部の密度分布や水・マグマの動きを推定できます。
軽量・可搬型のミュオン観測システムと、
高時間分解能・高位置分解能の二次元高抵抗板検出器(MRPC)を開発します。
私たちの頭上には24時間365日、宇宙から「ミュオン」という素粒子が降り注いでいます。これは宇宙線(高エネルギー粒子)が大気中で衝突すると生まれる二次粒子の一つで、地表に到達する宇宙線の中ではもっとも多い種類です。
ミュオンは電子より200倍以上重く、光速の99%以上という相対論的な速度で飛んできます。そのため、陽子・電子・X線などと比べて非常に強い透過力を持ち、コンクリート・岩石・建造物のような固い物質をも簡単に突き抜けます。 一方で、巨大な構造物を通過するとき、その一部は減速・吸収されたり、散乱によって進行方向を変えられたりします。 通る物質の密度が高いほどミュオンは強く減衰するため、 「ミュオンの減り方」や「散乱の大きさ」から内部の密度分布を推定する ことができます。
この“透視能力”を利用した手法は「宇宙線ミュオグラフィ」と呼ばれ、火山内部のモニタリング、巨大建造物の健全性調査、ピラミッド内部の空洞発見など、世界中で応用が進んでいます。 本プロジェクトでは、このミュオグラフィをさらに発展させ、 火山内部のマグマの動きと陸水の変動を切り分けるための新しい観測技術 の確立を目指します。
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)「宇宙線ミュオンを用いた革新的測位・構造物イメージング等応用技術」の一環として実施されており、 研究開発課題「時刻と二次元位置を同時に測定する高抵抗板検出器の開発」として進められています。
宇宙から降り注ぐ高エネルギー宇宙線が大気中で衝突すると、さまざまな二次粒子が生まれます。その中で地表まで大量に到達しているのが「ミュオン」です。
ミュオンは、
といった特徴を持っています。私たちの日常生活でも、 身体を毎秒100個以上のミュオンが通り抜けていますが、その影響を感じることはありません。
ミュオンは「地球規模のX線」のような存在であり、その通り方を詳しく調べることで、巨大な構造物の内部を非破壊で「見る」ことができます。
従来のミュオグラフィでは、観測にあまり役立たない低エネルギーミュオンを鉄などの遮蔽体で物理的に除去する方法が用いられてきましたが、遮蔽体は極めて重く運搬が困難であり、設置場所に大きな制約を与えるという問題がありました。
本研究では、遮蔽体を使わずに高エネルギーミュオンのみを選択するために、70ピコ秒程度の時間分解能でミュオンの飛行時間を測定し、速度からエネルギーを推定することで低エネルギーミュオンをデータ解析で除外する手法を用います。
さらに、約200μmの位置分解能でミュオンの通過位置を測定することで、ミュオンの到来方向を精密に復元し、 土壌中の水分量の推定など地球科学への応用を目指します。
これらを1 m × 1 mの大面積で実現できる検出器として、ガスを用いた高抵抗板検出器(MRPC)が最も有望であると考え、開発を進めています。
火山の活動を理解するには、地下深部のマグマの動きだけでなく、火山体内部に存在する陸水(地下水)の変動も重要です。重力計観測では、ある地点での重力の総和を測るため、
が重なって観測され、解釈が難しくなるという課題があります。
火山体には雨水が浸透し、内部に多量の陸水が存在します。特に、大雨後に火山体内部に水がしみ込み、その後数週間〜数ヶ月にわたってゆっくりと変化する「降水後の陸水変動」が重要です。しかし、その実態はまだ十分に解明されていません。
本研究では、ミュオグラフィを用いて火山内部の陸水の変動をモニターし、重力計による重力観測と組み合わせることで、 重力変化のうち、どれが陸水由来で、どれがマグマ由来なのかを切り分けることを目指します。
将来的には、さまざまな土壌環境での陸水変動を系統的に調べることで、土砂災害などの予測に役立つ可能性も期待されています。
高時間分解能・高位置分解能の高抵抗板検出器を、実際の火山観測に耐えるツールとして完成させるため、以下のような開発を進めています。
高電圧を安定に印加するため、市販カーボンテープや炭素スプレー、銅パッド+抵抗構成などを比較し、電圧分布の均一性と耐久性を評価します。
読み出し電極の幅や配置、ガス増幅領域との距離を変えながら、時間分解能・位置分解能・安定性のバランスを検証します。
従来のフロー型ガス供給から、長期使用可能な封入型検出器へ移行するため、性能の経時変化のモニター方法を確立します。
火山観測サイト特有の高湿度環境に対応するため、防湿構造や防湿庫の利用などを通じ、安全かつ安定した長期運用条件を検討します。
水槽などを対象に、ミュオンの散乱・遮蔽の変化を測定し、シミュレーションや重力計データと比較することで、密度推定手法の妥当性を検証します。
ガラス板間のギャップ厚やギャップ数を変えた試作機を製作し、時間分解能・安定性・放電耐性のバランスが最も良い構成を探索します。
代替フロン・ブタン・SF₆の3成分をベースに、環境負荷と扱いやすさを両立できるガス組成を検討します。
最適条件を組み合わせた1 m × 1 mの大型MRPCを製作し、加速器ビームを用いた性能評価や封入ガスでの長期運転試験を行います。
実際の火山観測サイトの坑道などに設置し、降雨や地殻変動イベントに対する応答を、ミュオン・重力・気象データとあわせて解析します。
火山観測や加速器ビームタイムなど、プロジェクトの活動の様子を写真と短いコメントで紹介します。
2025-11-19 現地観測
地下坑道の高湿度環境は高電圧を用いる放射線検出器の運用にとって過酷な環境です。将来的に高抵抗板検出器を設置するために,まずは従来使用されてきたプラスチックシンチレータによる宇宙線検出器を設置しました。